歯磨きと指導は誰がする?~第25回日本小動物歯科研究会症例検討会より~

2017年3月19日、第25回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会が行われました。
日本小動物歯科研究会の症例検討会は私が毎年楽しみにしているものの一つです。

おなじみの会場。

ランチョンセミナーのお弁当も楽しみの一つ。お弁当だけが楽しみじゃないヨ。

初めて参加した3年前(→「第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会でドキドキ」)は、
歯科獣医療について私には物珍しく驚くことの連続でした。
なのにご指名を頂くといううれしはずかしビックリハプニングがあり、
無麻酔歯石除去の問題について提言させて頂き、嵐(?)を巻き起こしたのでした。

2度目の参加となる昨年は、大人しくしていようと思ったものの
犬への電動ブラシの効果についての発表に興味が湧いて湧いて、
どうしても質問せずにいられませんでした。
(→「第24回日本小動物歯科研究会症例検討会~育てるということ

学会やセミナーなどの会場では聴衆が数十人から数百人いる中で、質問する人はほんの数人。
「歯科医師の川久保と申します。本日は貴重なご発表を~」
という質問前のテンプレートな文言も、獣医療関係者の方がほとんどの中では目立つのです(^^;)
初めはアウェー感をひしひしと感じていましたが、
「ああ、あの人ね」
と徐々に受け入れられて来たように思えるのも、この会ならではの温かさかも知れません。
今回も
「お名前はかねがね聞いております」
と言われ、えええ、マジですか~と驚きつつ照れまくる一幕もありました。

私が犬猫の歯科について関心を持って数年、私の中でも歯科獣医療についての知識が増えていきますし、
獣医療界でも一般の飼い主様の間でも犬猫の歯科についての啓発と取り組みが進み、
参加するごとに会の雰囲気と症例発表の内容が変わってきているのを感じます。
それも参加の楽しみの一つでした。

今回最も気になったのは、21動物病院の鈴木正吾先生による
「トリマー向けデンタルケアの疑問についてのアンケート調査結果」
でした。
この調査の注目すべき点は、まず、調査対象(回答者)がトリマーであるということです。
私は常々、トリミングサロンやペットショップで行われている
歯磨きや「お口ケア」などのデンタルケアサービスに疑問を抱いてきました。
「犬猫の歯垢は約3日で歯石になる」
というのはよく知られるようになりましたが、
それならば多くてもせいぜい月数回行われるデンタルケアサービスに意味があるのだろうかと。
「お口のケアをしてもらった」
という飼い主の安心感が、逆に家庭でのこまめなケアを滞らせる一因となりはしないか。
そもそも歯科獣医療を専門的に学んだわけではないトリマーやスタッフが
正しいブラッシングやケアをできているのだろうか。
これは前回のブログ「磨いているけど、磨けていない?~歯磨きの「イ」と「ケ」の話
で書いたことにもつながります。
もっともトリマーだけではなく、近年は犬猫のデンタルケアの浸透に合わせて
ドッグトレーナーや生体販売のペットショップまでもが
デンタルケアサービスやセミナーを行うようになってきました。
周囲を見渡してみても、自分のペットの健康上の問題や疑問について
「ペットショップで相談した」
「ブリーダーに相談した」
「トリマーに相談した」
など非常に多いと思います。
ペットサービスという大きな枠組みの中で、「獣医療」との境界線が非常にあいまいであると感じていました。

発表内容に話を戻しますと、
・デンタルケアセミナーに参加した経験のあるトリマーは約70%
・デンタルケアの勉強をしたいトリマーは98%
・デンタルケアに悩んでいるトリマーは90%

なのだそうです。
トリマーの間でのデンタルケアへの関心と関与がいかに高いかが分かります。
そして
デンタルケアセミナーに参加した経験のあるトリマーのうち、25%が無麻酔歯石除去に興味があり、
・無麻酔歯石除去の方法を知りたい:22%
なのだそうです。

なんということでしょう!!

デンタルケアセミナーに参加していながら
無麻酔歯石除去に興味を持ったり、方法を知りたくなったりするとは
一体セミナーでは何を教え、何を学んでいるのかと言いたくなりますが
トリマーがこう思ってしまうのも責められない一面がある気がします。

上述の通りトリマーは飼い主からの相談を受けることが多くあります。
デンタルケアの相談を受けることもきっと増えてきていることでしょう。
その時に
「飼い主からのニーズに応えたい」
・答えられないようではトリマーとしての信頼が下がる
・ビジネスチャンスである
・何かしてあげたい
と思うのは自然なことです。
特にこの「信頼が下がる」と「何かしてあげたい」というのは
トリマーだけでなく専門職にありがちな「落とし穴」的心理であり、
こう思うあまりに自分の手に余るものや越権行為にあたる依頼を引き受けてしまうことがあります。
専門職として正しくあるのは、自分の実力(できることとできないこと)を素直に見極め、
能力的や立場的にできないものは、それが可能なところへつなげる(リファーするといいます)ことです。
できないものをできるところへつなげるのは、利用者(患者や顧客など)の利益を第一に考えることでもあり、
専門職者自身を守ることでもあるのですが、未熟であるとこれができず、
自分で背負い込んでしまうこともよくあります。
先程述べたように獣医療との境界があいまいなペットサービスではなおのことでしょう。

動物の「歯石除去」は麻酔の有無に関わらず「医療行為」なので
獣医師のみが行うべきなのは言うまでもないことです。
しかし歯磨きではどうでしょうか?

人間の場合は、平成17年7月26日の厚生労働省からの通達で
「重度の歯周病等がない場合の日常的な口腔内の刷掃・清拭において、
歯ブラシや綿棒又は巻き綿子などを用いて、
歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除き、清潔にすること」
は歯科医師法の規制対象にならないとされています。
つまりこの場合は歯科医師でなくても口腔内清掃ができるということです。
しかしあくまでも、
・重度の歯周病がなく
・歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除くこと
に限定されています。
重度の歯周病があればアウトですし、歯周病の診断は歯科医師でなければできません
歯周病がある、ない、初期だ、進んでいる、などと判断するのは診断にあたります。
行っていいのも汚れを取るだけですから、「歯磨き指導」などはできないわけです。

これを参考に動物について考えてみると、
重度の歯周病がなければ歯ブラシや歯磨きシートなどでお口の汚れを拭う程度のサービスなら
獣医師でない人が行っても問題ないのでは、と思えるかも知れません。
しかしながら動物の歯周病のチェックはやはり獣医師でなければできないわけで、
動物病院で歯周病の有無の診断を受けていない動物の場合は
歯磨きサービスの前にまず診断を受ける必要があるでしょう。
加えて、無麻酔歯石除去の問題で述べたことがありますが、
進行した歯周病の場合はあごの骨が吸収されて細く薄くなっており、
マズル部分に少し力が加わっただけでも骨折してしまうことがあります。
歯磨きサービスでも同じことがいえるでしょう。
(→「1.無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~」)

さらに言えば、繰り返しになりますが
歯科の専門教育を受けたわけではない人にどれだけきちんとした歯磨きができるのか、
という疑問があります。
たかが歯磨き…ではなく、
世界中の歯科大学や歯学部ではブラッシング(歯磨き)についての研究が行われており
実は非常に奥が深いものなのです。
そしていうまでもなく、「歯磨き指導」はできないということになるでしょう。

でも、飼い主の間では
「動物病院や獣医さんに相談するよりも、日頃よく行くトリミングサロンの方が相談しやすい」
というニーズがあるのも確かです。
動物病院でなければケアが受けられず、つい足が遠のきがちになりケアの機会を逃すよりは
身近で気軽なトリミングサロンで小まめなケアを受けられた方が良い、
という考え方もできるでしょう。

私個人の考えとしては、動物看護師のキャリア形成の一環としても
伴侶動物(を持つ飼い主)が気軽に歯磨きのケアを受けられるようになるためにも、
その結果、動物病院の経営発展に役立つためにも、
伴侶動物のデンタルケアを動物看護師の専門スキルとして教育し、活かすのはどうだろうかと思っています。

……ということが発表を聴いている間に頭の中をぐるぐるぐるぐる。

座長の
「それでは、フロアからのご質問はありませんか?」

「はいはーい♪」
とばかりに挙手。もう大人しくしていようなんてしないんだもんね(笑)

私からの質問に続いて、歯磨きなどデンタルケアは医療の一環なのだから
動物病院で獣医師や動物看護師が行うべき、
いや皮膚科分野と同じようにトリマーと協力して行うのも良いのではないか、
など様々な意見が出されました。

会の合間の休憩時間に、会長を務められているフジタ動物病院の藤田桂一先生から
「あの発表ね、質問が出なければ川久保先生を指名しようと思っていたんですよ」
とニヤリと笑って言われました。

ま、またですか~(≧▽≦)
というか、私が来ているのバレていましたか~(≧▽≦;)

どちらにしても黙って座っているわけにはいかなかったということですね(^^ゞ
何かの議題に関して意見をと思って頂けるのはとても光栄なことです。ありがたいです。
このテーマについては藤田先生も、いずれ別の機会を設けて話し合ってみたいとおっしゃっていました。
私も本当にそう思います。

動物看護師の方、トリマーの方、その他ペット関連職の方、そして一般の飼い主様にも
ぜひぜひ考えてみて頂きたいテーマでした。

夕暮れの景色がきれいでした。

 

 

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