無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~

1. 歯科医学の面から

その2 ポリッシングができない問題

前回、無麻酔歯石除去では歯肉縁下歯石が取れないので歯周治療には不十分というお話をしました。
(→無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~
今回は、無麻酔歯石除去の次のデメリットとして「ポリッシングができない問題」について語ります。

歯石除去(スケーリング)は、ハンドスケーラーという金属製の器具や超音波スケーラーを用います。
無麻酔歯石除去を謳っている業者はよく

「ハンドスケーラーで丁寧に取るのでワンちゃんにやさしいです」
「超音波スケーラーを用いるので安全です」

などと宣伝していますが、どちらも正しくはありません。
ハンドスケーラーは鋭利な刃物ですから、扱い方や動物の急な体動などで
歯や歯肉、頬、顔面、目などを傷つけるおそれ
があります。
超音波スケーラーは刃物ではないので安全そうに見えますが、
高速の振動により発熱するので、こちらも使い方を熟知していないと
歯の中の歯髄(神経や血管など)を痛め、
強い痛みや歯髄壊死(しずいえし・神経が死ぬこと)を引き起こす危険性があります。
ついでにもう一つ言えば、超音波スケーラーはその特性を活かすため(キャビテーション)と
発熱を抑えるために水を出しながら使うのですが、
無麻酔歯石除去でこれを行うのはとても困難で、気管に水が入るなどの危険性もあります。
(後述します)

そして、ハンドスケーラーでも超音波スケーラーでも、
歯石除去を行った後は歯面(歯の表面)がザラザラに傷つくものです。

昔、こんなことがありました。
ある人に

「なんだかよぅ、俺の歯、一本だけ色がおかしいんだよ。何だろうなぁ、見てくれないかなぁ」

と言われたことがありました。
見ると、ある一本だけくすんだ灰色になっていて、まるで歯髄壊死を起こした歯のようになっています。

しかし、歯髄壊死のきっかけになるような虫歯も歯周病もありません。

「この歯を強く打ったり、過去に強い痛みがあったことは?」
「ねぇんだよ。なんだろうねぇ…」

うーん…?
そこでさらに気になったのは、この人のタバコのヤニのあと。
む、もしや。

「もしかして、ヤニなどを取ろうとして歯を引っかいたりしたことはありませんか?」

「おお、あるある!ヤニが気になるからよ、マイナスドライバーでこすったんだよ!」

これでした。

ドライバーでこすったために歯の表面に傷が付き、
その傷がさらにヤニや汚れ(色素沈着)を招き、色がおかしくなっていたのでした。

スケーリングの後もこれと同じような状態になります。
肉眼的にはほとんど分かりませんが、歯の表面が荒れてザラザラになっているので
そのままだとかえって歯石が付きやすくなるのです。
そこで研磨剤とブラシやゴムでできた器具(ラバーカップ)を使って、歯の表面をツルツルに仕上げる
「ポリッシング」という処置が必要になります。

ポリッシング器具撮影協力:河野歯科クリニック

しかし、無麻酔歯石除去ではこのポリッシングも行うことが困難です。

まず、ブラシやラバーカップでの研磨はゴリゴリとした音と振動があります。
実際に歯科医院でこの処置を受けたことがある方は分かると思いますが、かなりの振動ですよね。
特に上の歯などは振動がダイレクトに上あごや頭蓋骨に伝わるので結構不快です。
前回の記事で書いたように、スケーリングと同様、ポリッシングも
犬や猫が恐怖や嫌悪感を感じることなく、おとなしく受けられるとは思えません

次に研磨剤の問題があります。

ポリッシング終了後は研磨剤をしっかりとすすいでおくことが大切です。
研磨剤が口の中に残ると不快だという理由だけでなく、
研磨剤の粒子が歯周ポケットの中に残っていると、
それが刺激となって歯周病を進行させるおそれがあるからです。

人間の場合はスリーウェイシリンジ(歯科医院で使う、圧縮空気や水が出る水鉄砲のようなアレ)で
きれいに洗浄できますし、ポリッシング終了後に自分で口を濯ぐこともできます。
ですが犬猫の場合は?
スリーウェイシリンジで洗浄しようものならビックリして暴れるでしょうし、
その水が気管に入ってむせたり、誤嚥性肺炎などを起こす危険性もあるでしょう。
自分で「ブクブクうがい」などできませんから、
研磨剤は長い間口の中や歯周ポケット内に留まります。

一方、麻酔下であれば
研磨剤を水で洗浄することも可能ですし、
気管内チューブを入れているので呼吸を妨げたり、むせたりすることもありません。

このような理由で、無麻酔歯石除去ではスケーリング後の大事な処置である
「ポリッシング」が不可能であるか、無理におこなってかえってリスクを高めるといえます。

無麻酔歯石除去ではポリッシングをせず歯石を取るだけの所も、ポリッシングもしているという所もありますが、
こうしたことを知らないか、危険を容認しているかのどちらかと言わざるを得ません。

 

→次回、「1. 無麻酔歯石除去の問題~歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~」に続きます。

 

 

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無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: 無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~ | Ataraxia -アタラクシア-

  2. かばさん、こんにちわ。
    熊本のえるです(笑)
    毎日暑いですが、蓮ちゃんも元気ですか?

    歯科医師としての目線から詳しく説明ありがとうごさいます。
    じっくり読ませてもらいました。

    レジーも一昨年歯石取りしました。
    少しでも若いうちに、麻酔がかけられる健康なうちに、と思って。
    血液検査の結果、問題がなければ全身麻酔下で
    歯石取りをしてもらった方がいいと思って、
    施術してもらいました。

    麻酔をかけるリスクと、かけないで施術するリスク。
    かばさんが細かく治療を説明してくださってるので、健康であればなおさら、かけないことのリスクが理解できました、
    わかりやすい説明ありがとうごさいました。

    そうそう、帝京大学に行った記事も読みました。
    写真みましたけど、かばさん相変わらず可愛いですね(*´д`*)

    • 熊本のえるさん、こんにちは(お気遣い有難うございます(^_^;))
      おかげ様で私達は毎日元気で犬生活を楽しんでいます。
      レジーちゃん、歯石取りをしてスッキリできて良かったですね。

      近年は「無麻酔歯石除去」がビジネスとして広がっており、
      その流れの中で「麻酔は危険、悪いもの」と印象づけられるようになってしまいました。
      確かに病気、体質、年齢などで全身麻酔のリスクが上がることはありますが、
      闇雲に麻酔を恐れるのは賢明ではありませんよね。
      リスクを避けて別のリスクを被ってしまうのでは本末転倒です。
      そうしたことをお伝えしたくて記事にしています。
      読んで頂いて本当にうれしく思います(^-^)
      私の写真をモザイクをかけなければ公開できなくなる前には書き上げなくてはなりませんね(笑)

      レジーちゃんも歯石を取った後のクリーンな状態が長続きするよう、
      お家での歯みがき頑張ってくださいネ!

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