磨いているけど、磨けていない?~歯磨きの「イ」と「ケ」の話

 

皆様、歯磨きはしていますか?
たぶん、「磨いているよ」と思われることでしょう。

では、「磨けていますか?」では?
これもたぶん、少しは「え?」と戸惑われるかも知れませんが、「磨けていると思う」ではないでしょうか。
 

私たちは物心ついた頃から歯磨きを教えられ、習慣づけられ

歯磨きなど「当たり前に」できていると思っているのではないでしょうか。
 
「歯磨き指導」を受けたことがあると思います。
小中学校でよく行われていますが、歯科医院で受けた方もいらっしゃるでしょう。
歯磨き指導は歯科医療スタッフにとって大変重要な仕事ではありますが、
特に新人の頃においては、ちょっと気が重いという人も少なくありません。
なぜならば「受け入れてもらえにくい(と思う)」からです。
 
「大人になって歯磨きを教えられるなんて」
「歯磨きなんてできるよ」
「結構です!」
こんな言葉が返ってくることが時々はあります。
今さら?歯磨ごときで?子供扱い?無駄だよ。馬鹿にされているみたい…
日頃「当たり前に」磨いているからこそ、大人になった患者さんには受け入れにくい気持ちが働くのはよく分かります。
これは私達、歯科医療スタッフ側にも同じことが言えて
「歯磨きを大人に教えるなんて失礼ではないかしら」
という遠慮や引け目があると、受け入れてもらえにくいと思ってしまうのです。
 
しかし、「磨いている」ことと「磨けている」ことの違い、「磨けている」ことの大切さを知ると、歯磨きの仕方をお伝えすることは引け目を感じるべきことではないと分かってきます。
むしろ、知ってほしい、お伝えしたい、という熱意すら湧いてくるのですが、「磨けている」「それくらいできる」と思っている方のプライドも傷つけないようにお伝えしなければなりません。
例えば虫歯になったとか歯がグラグラしてきたとか、「こんな磨き方ではだめだったんだな」と自分で実感できることがあれば受け入れやすいし、方法を変えてみようという気にもなりやすいとは思いますが、損失を出してからになって欲しくないので、耳を傾けて受け入れて頂けるようにお伝えする方法をスタッフは常に考えています。
 
さてここまで、人の歯磨きについてお話をしてきましたが
犬猫などパートナーの歯磨きについても同じようなことが言えます。
ここから先は、人の歯の場合と、犬猫などパートナーの歯の場合と両方を思い浮かべながら読んで頂きたいと思います。
 
近年では犬猫にも歯磨きが重要だということが知られるようになり、こちらがお話する前から
「歯磨きが必要なんでしょう?」と訊いて下さる飼い主様も増えました。
「歯磨きトレーニング」を積極的に受講して下さる方も増えましたが、
まだ「歯磨きにそんなに時間とお金をかけるなんて」「歯磨きくらい自分でできるし」と思っている方も少なくありません。
 
これは「歯垢染色剤」。
歯垢(プラーク)が付いていると赤く染まるものです。
学校や歯科医院などで赤く染めだされて「ここが磨けていない部分ですよ」と言われた経験があると思います。
私はこれを自分で時々使用して歯磨きチェックをしています。
理由は当然、磨けていない部分があるからです。
自分が磨き残しがちな場所など、歯磨きの癖も分かります。
歯科医師や歯科衛生士ですらなかなか完璧にはいかないものなのです。
 
患者様に虫歯の存在や歯肉、歯周組織のトラブルを指摘すると
「磨いているんだけどなぁ」
とよく言われます。
そう、磨いているのだと思いますが、残念ながら「磨けていない」部分があり、
長い間それに気付かなかったためにう蝕(虫歯)や歯周病になってしまったのです。
 
「磨けている」と思っている私たち人ですら、自分の歯すら「磨けていない」のだから、
犬や猫の歯を磨くとなればどうでしょうか。
ドッグトレーニングを受講されている飼い主様の中でも、「歯磨きはできているので」という方はいらっしゃいますが
パートナーのお口の中を見ると歯肉に炎症があったり歯石が付いてしまったりしていることがほとんどです。

歯石が付いた犬の歯

試しに磨いて見せて頂くと、歯ブラシの選び方が良くなかったり、
歯ブラシの動かし方や力の入れ方が適切でなかったり、
磨きやすいところだけ磨いて「磨いたつもりになっている」ことが本当によくあります。
このことは犬や猫の歯を磨くときだけではなく、
人が自分の歯を磨く際にも同じように言えるのです。
 
そこで私はしばしば尋ねます。
「最近、歯科医院で歯磨きのしかたを教わったことはありますか?」
と。
無ければ一度、歯科医院で歯磨きのチェックを受けてみて欲しいと思います。
きっと知らなかったことや気付かなかったことが色々見つかることと思います。
磨いているつもりでも、案外「磨けていない」ことに気付くでしょう。
そこでの気づきはパートナーの歯を磨いてあげるときにも大いに役立ちます。
そしてできれば、パートナーのための歯磨きレッスンも受けて欲しいと思います。
歯石が付きやすいのはどこか、磨き残しやすいのはどこか、歯ブラシの選び方は、動かし方や力の加減は、など
ひとりではなかなか知る機会がなく、独自の判断でおこなってしまいがちなことについて
正しい情報を得ることができるでしょう。
 
パートナーの歯やそれにつながる健康上のトラブルは、パートナーの「自己責任」というわけにはいきません。
パートナーの苦しみを見るにつけ、きちんと手入れしてあげなかったことを悔やみ、治療にかかる経済面や時間、物理的な負担を背負い、パートナーと飼い主様自身の二重の苦しみを味わうことになります。
それでもパートナーの苦痛を肩代わりしてあげることはできません。
できることは健康なうちに予防をしてあげること。
問題が初期のうちに対処してあげること。
苦痛を味わわせてからでは可哀相だと思いませんか。
そして、あなたの歯も。
悪くなる前に、痛くなる前に正しい磨き方を身に付けて、あなたの歯も、パートナーの歯も、パートナー自身も、生涯のお付き合いとして末永く共に過ごせますよう願ってやみません。
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