歯磨きと指導は誰がする?~第25回日本小動物歯科研究会症例検討会より~

2017年3月19日、第25回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会が行われました。
日本小動物歯科研究会の症例検討会は私が毎年楽しみにしているものの一つです。

おなじみの会場。

ランチョンセミナーのお弁当も楽しみの一つ。お弁当だけが楽しみじゃないヨ。

初めて参加した3年前(→「第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会でドキドキ」)は、
歯科獣医療について私には物珍しく驚くことの連続でした。
なのにご指名を頂くといううれしはずかしビックリハプニングがあり、
無麻酔歯石除去の問題について提言させて頂き、嵐(?)を巻き起こしたのでした。

2度目の参加となる昨年は、大人しくしていようと思ったものの
犬への電動ブラシの効果についての発表に興味が湧いて湧いて、
どうしても質問せずにいられませんでした。
(→「第24回日本小動物歯科研究会症例検討会~育てるということ

学会やセミナーなどの会場では聴衆が数十人から数百人いる中で、質問する人はほんの数人。
「歯科医師の川久保と申します。本日は貴重なご発表を~」
という質問前のテンプレートな文言も、獣医療関係者の方がほとんどの中では目立つのです(^^;)
初めはアウェー感をひしひしと感じていましたが、
「ああ、あの人ね」
と徐々に受け入れられて来たように思えるのも、この会ならではの温かさかも知れません。
今回も
「お名前はかねがね聞いております」
と言われ、えええ、マジですか~と驚きつつ照れまくる一幕もありました。

私が犬猫の歯科について関心を持って数年、私の中でも歯科獣医療についての知識が増えていきますし、
獣医療界でも一般の飼い主様の間でも犬猫の歯科についての啓発と取り組みが進み、
参加するごとに会の雰囲気と症例発表の内容が変わってきているのを感じます。
それも参加の楽しみの一つでした。

今回最も気になったのは、21動物病院の鈴木正吾先生による
「トリマー向けデンタルケアの疑問についてのアンケート調査結果」
でした。
この調査の注目すべき点は、まず、調査対象(回答者)がトリマーであるということです。
私は常々、トリミングサロンやペットショップで行われている
歯磨きや「お口ケア」などのデンタルケアサービスに疑問を抱いてきました。
「犬猫の歯垢は約3日で歯石になる」
というのはよく知られるようになりましたが、
それならば多くてもせいぜい月数回行われるデンタルケアサービスに意味があるのだろうかと。
「お口のケアをしてもらった」
という飼い主の安心感が、逆に家庭でのこまめなケアを滞らせる一因となりはしないか。
そもそも歯科獣医療を専門的に学んだわけではないトリマーやスタッフが
正しいブラッシングやケアをできているのだろうか。
これは前回のブログ「磨いているけど、磨けていない?~歯磨きの「イ」と「ケ」の話
で書いたことにもつながります。
もっともトリマーだけではなく、近年は犬猫のデンタルケアの浸透に合わせて
ドッグトレーナーや生体販売のペットショップまでもが
デンタルケアサービスやセミナーを行うようになってきました。
周囲を見渡してみても、自分のペットの健康上の問題や疑問について
「ペットショップで相談した」
「ブリーダーに相談した」
「トリマーに相談した」
など非常に多いと思います。
ペットサービスという大きな枠組みの中で、「獣医療」との境界線が非常にあいまいであると感じていました。

発表内容に話を戻しますと、
・デンタルケアセミナーに参加した経験のあるトリマーは約70%
・デンタルケアの勉強をしたいトリマーは98%
・デンタルケアに悩んでいるトリマーは90%

なのだそうです。
トリマーの間でのデンタルケアへの関心と関与がいかに高いかが分かります。
そして
デンタルケアセミナーに参加した経験のあるトリマーのうち、25%が無麻酔歯石除去に興味があり、
・無麻酔歯石除去の方法を知りたい:22%
なのだそうです。

なんということでしょう!!

デンタルケアセミナーに参加していながら
無麻酔歯石除去に興味を持ったり、方法を知りたくなったりするとは
一体セミナーでは何を教え、何を学んでいるのかと言いたくなりますが
トリマーがこう思ってしまうのも責められない一面がある気がします。

上述の通りトリマーは飼い主からの相談を受けることが多くあります。
デンタルケアの相談を受けることもきっと増えてきていることでしょう。
その時に
「飼い主からのニーズに応えたい」
・答えられないようではトリマーとしての信頼が下がる
・ビジネスチャンスである
・何かしてあげたい
と思うのは自然なことです。
特にこの「信頼が下がる」と「何かしてあげたい」というのは
トリマーだけでなく専門職にありがちな「落とし穴」的心理であり、
こう思うあまりに自分の手に余るものや越権行為にあたる依頼を引き受けてしまうことがあります。
専門職として正しくあるのは、自分の実力(できることとできないこと)を素直に見極め、
能力的や立場的にできないものは、それが可能なところへつなげる(リファーするといいます)ことです。
できないものをできるところへつなげるのは、利用者(患者や顧客など)の利益を第一に考えることでもあり、
専門職者自身を守ることでもあるのですが、未熟であるとこれができず、
自分で背負い込んでしまうこともよくあります。
先程述べたように獣医療との境界があいまいなペットサービスではなおのことでしょう。

動物の「歯石除去」は麻酔の有無に関わらず「医療行為」なので
獣医師のみが行うべきなのは言うまでもないことです。
しかし歯磨きではどうでしょうか?

人間の場合は、平成17年7月26日の厚生労働省からの通達で
「重度の歯周病等がない場合の日常的な口腔内の刷掃・清拭において、
歯ブラシや綿棒又は巻き綿子などを用いて、
歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除き、清潔にすること」
は歯科医師法の規制対象にならないとされています。
つまりこの場合は歯科医師でなくても口腔内清掃ができるということです。
しかしあくまでも、
・重度の歯周病がなく
・歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除くこと
に限定されています。
重度の歯周病があればアウトですし、歯周病の診断は歯科医師でなければできません
歯周病がある、ない、初期だ、進んでいる、などと判断するのは診断にあたります。
行っていいのも汚れを取るだけですから、「歯磨き指導」などはできないわけです。

これを参考に動物について考えてみると、
重度の歯周病がなければ歯ブラシや歯磨きシートなどでお口の汚れを拭う程度のサービスなら
獣医師でない人が行っても問題ないのでは、と思えるかも知れません。
しかしながら動物の歯周病のチェックはやはり獣医師でなければできないわけで、
動物病院で歯周病の有無の診断を受けていない動物の場合は
歯磨きサービスの前にまず診断を受ける必要があるでしょう。
加えて、無麻酔歯石除去の問題で述べたことがありますが、
進行した歯周病の場合はあごの骨が吸収されて細く薄くなっており、
マズル部分に少し力が加わっただけでも骨折してしまうことがあります。
歯磨きサービスでも同じことがいえるでしょう。
(→「1.無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~」)

さらに言えば、繰り返しになりますが
歯科の専門教育を受けたわけではない人にどれだけきちんとした歯磨きができるのか、
という疑問があります。
たかが歯磨き…ではなく、
世界中の歯科大学や歯学部ではブラッシング(歯磨き)についての研究が行われており
実は非常に奥が深いものなのです。
そしていうまでもなく、「歯磨き指導」はできないということになるでしょう。

でも、飼い主の間では
「動物病院や獣医さんに相談するよりも、日頃よく行くトリミングサロンの方が相談しやすい」
というニーズがあるのも確かです。
動物病院でなければケアが受けられず、つい足が遠のきがちになりケアの機会を逃すよりは
身近で気軽なトリミングサロンで小まめなケアを受けられた方が良い、
という考え方もできるでしょう。

私個人の考えとしては、動物看護師のキャリア形成の一環としても
伴侶動物(を持つ飼い主)が気軽に歯磨きのケアを受けられるようになるためにも、
その結果、動物病院の経営発展に役立つためにも、
伴侶動物のデンタルケアを動物看護師の専門スキルとして教育し、活かすのはどうだろうかと思っています。

……ということが発表を聴いている間に頭の中をぐるぐるぐるぐる。

座長の
「それでは、フロアからのご質問はありませんか?」

「はいはーい♪」
とばかりに挙手。もう大人しくしていようなんてしないんだもんね(笑)

私からの質問に続いて、歯磨きなどデンタルケアは医療の一環なのだから
動物病院で獣医師や動物看護師が行うべき、
いや皮膚科分野と同じようにトリマーと協力して行うのも良いのではないか、
など様々な意見が出されました。

会の合間の休憩時間に、会長を務められているフジタ動物病院の藤田桂一先生から
「あの発表ね、質問が出なければ川久保先生を指名しようと思っていたんですよ」
とニヤリと笑って言われました。

ま、またですか~(≧▽≦)
というか、私が来ているのバレていましたか~(≧▽≦;)

どちらにしても黙って座っているわけにはいかなかったということですね(^^ゞ
何かの議題に関して意見をと思って頂けるのはとても光栄なことです。ありがたいです。
このテーマについては藤田先生も、いずれ別の機会を設けて話し合ってみたいとおっしゃっていました。
私も本当にそう思います。

動物看護師の方、トリマーの方、その他ペット関連職の方、そして一般の飼い主様にも
ぜひぜひ考えてみて頂きたいテーマでした。

夕暮れの景色がきれいでした。

 

 

磨いているけど、磨けていない?~歯磨きの「イ」と「ケ」の話

 

皆様、歯磨きはしていますか?
たぶん、「磨いているよ」と思われることでしょう。

では、「磨けていますか?」では?
これもたぶん、少しは「え?」と戸惑われるかも知れませんが、「磨けていると思う」ではないでしょうか。
 

私たちは物心ついた頃から歯磨きを教えられ、習慣づけられ

歯磨きなど「当たり前に」できていると思っているのではないでしょうか。
 
「歯磨き指導」を受けたことがあると思います。
小中学校でよく行われていますが、歯科医院で受けた方もいらっしゃるでしょう。
歯磨き指導は歯科医療スタッフにとって大変重要な仕事ではありますが、
特に新人の頃においては、ちょっと気が重いという人も少なくありません。
なぜならば「受け入れてもらえにくい(と思う)」からです。
 
「大人になって歯磨きを教えられるなんて」
「歯磨きなんてできるよ」
「結構です!」
こんな言葉が返ってくることが時々はあります。
今さら?歯磨ごときで?子供扱い?無駄だよ。馬鹿にされているみたい…
日頃「当たり前に」磨いているからこそ、大人になった患者さんには受け入れにくい気持ちが働くのはよく分かります。
これは私達、歯科医療スタッフ側にも同じことが言えて
「歯磨きを大人に教えるなんて失礼ではないかしら」
という遠慮や引け目があると、受け入れてもらえにくいと思ってしまうのです。
 
しかし、「磨いている」ことと「磨けている」ことの違い、「磨けている」ことの大切さを知ると、歯磨きの仕方をお伝えすることは引け目を感じるべきことではないと分かってきます。
むしろ、知ってほしい、お伝えしたい、という熱意すら湧いてくるのですが、「磨けている」「それくらいできる」と思っている方のプライドも傷つけないようにお伝えしなければなりません。
例えば虫歯になったとか歯がグラグラしてきたとか、「こんな磨き方ではだめだったんだな」と自分で実感できることがあれば受け入れやすいし、方法を変えてみようという気にもなりやすいとは思いますが、損失を出してからになって欲しくないので、耳を傾けて受け入れて頂けるようにお伝えする方法をスタッフは常に考えています。
 
さてここまで、人の歯磨きについてお話をしてきましたが
犬猫などパートナーの歯磨きについても同じようなことが言えます。
ここから先は、人の歯の場合と、犬猫などパートナーの歯の場合と両方を思い浮かべながら読んで頂きたいと思います。
 
近年では犬猫にも歯磨きが重要だということが知られるようになり、こちらがお話する前から
「歯磨きが必要なんでしょう?」と訊いて下さる飼い主様も増えました。
「歯磨きトレーニング」を積極的に受講して下さる方も増えましたが、
まだ「歯磨きにそんなに時間とお金をかけるなんて」「歯磨きくらい自分でできるし」と思っている方も少なくありません。
 
これは「歯垢染色剤」。
歯垢(プラーク)が付いていると赤く染まるものです。
学校や歯科医院などで赤く染めだされて「ここが磨けていない部分ですよ」と言われた経験があると思います。
私はこれを自分で時々使用して歯磨きチェックをしています。
理由は当然、磨けていない部分があるからです。
自分が磨き残しがちな場所など、歯磨きの癖も分かります。
歯科医師や歯科衛生士ですらなかなか完璧にはいかないものなのです。
 
患者様に虫歯の存在や歯肉、歯周組織のトラブルを指摘すると
「磨いているんだけどなぁ」
とよく言われます。
そう、磨いているのだと思いますが、残念ながら「磨けていない」部分があり、
長い間それに気付かなかったためにう蝕(虫歯)や歯周病になってしまったのです。
 
「磨けている」と思っている私たち人ですら、自分の歯すら「磨けていない」のだから、
犬や猫の歯を磨くとなればどうでしょうか。
ドッグトレーニングを受講されている飼い主様の中でも、「歯磨きはできているので」という方はいらっしゃいますが
パートナーのお口の中を見ると歯肉に炎症があったり歯石が付いてしまったりしていることがほとんどです。

歯石が付いた犬の歯

試しに磨いて見せて頂くと、歯ブラシの選び方が良くなかったり、
歯ブラシの動かし方や力の入れ方が適切でなかったり、
磨きやすいところだけ磨いて「磨いたつもりになっている」ことが本当によくあります。
このことは犬や猫の歯を磨くときだけではなく、
人が自分の歯を磨く際にも同じように言えるのです。
 
そこで私はしばしば尋ねます。
「最近、歯科医院で歯磨きのしかたを教わったことはありますか?」
と。
無ければ一度、歯科医院で歯磨きのチェックを受けてみて欲しいと思います。
きっと知らなかったことや気付かなかったことが色々見つかることと思います。
磨いているつもりでも、案外「磨けていない」ことに気付くでしょう。
そこでの気づきはパートナーの歯を磨いてあげるときにも大いに役立ちます。
そしてできれば、パートナーのための歯磨きレッスンも受けて欲しいと思います。
歯石が付きやすいのはどこか、磨き残しやすいのはどこか、歯ブラシの選び方は、動かし方や力の加減は、など
ひとりではなかなか知る機会がなく、独自の判断でおこなってしまいがちなことについて
正しい情報を得ることができるでしょう。
 
パートナーの歯やそれにつながる健康上のトラブルは、パートナーの「自己責任」というわけにはいきません。
パートナーの苦しみを見るにつけ、きちんと手入れしてあげなかったことを悔やみ、治療にかかる経済面や時間、物理的な負担を背負い、パートナーと飼い主様自身の二重の苦しみを味わうことになります。
それでもパートナーの苦痛を肩代わりしてあげることはできません。
できることは健康なうちに予防をしてあげること。
問題が初期のうちに対処してあげること。
苦痛を味わわせてからでは可哀相だと思いませんか。
そして、あなたの歯も。
悪くなる前に、痛くなる前に正しい磨き方を身に付けて、あなたの歯も、パートナーの歯も、パートナー自身も、生涯のお付き合いとして末永く共に過ごせますよう願ってやみません。

第24回日本小動物歯科研究会症例検討会~育てるということ

多忙が重なりブログも9か月ぶり(!)の更新になりますが、
ずっと書きたかった第24回日本小動物歯科研究会の症例検討会のことを振り返りたいと思います。

2016年3月21日、第24回日本小動物歯科研究会の症例検討会・総会が開催されました。
この会の前に送られてきていた会報に、動物の無麻酔下での歯石除去等に関するアンケートが含まれていました。
これはかねてより当ブログでも何度も記事にしていたり、
小動物歯科に携わる獣医師の先生と個人的にも問題点を話し合ったりしていました。
前回の第23回日本小動物歯科研究会症例検討会では藤田佳一先生からご指名を受け、
会場において無麻酔歯石除去の問題と、これを広く啓発していく必要性を切々と
(いや、長々と…でしたか^^;)訴える機会を頂いた、私にとって関心と関わりの深いテーマです。
(→第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会でドキドキ
この第23回症例検討会での出来事が今回のアンケート実施に少なからずきっかけをもたらしたと思われ、
アンケートの結果がどのようになっているのかも大変興味がありました。

発表された症例はすべてが関心を掻き立てられるものばかりでしたが、
その中でもひときわだったのが、みるく動物病院の塩見佳男先生による「週1回の歯磨きにおける電動ブラシの効果」。
Ataraxiaでも歯磨きトレーニングを行っていますし、
人・犬ともに患者さんや飼い主さんの中には電動ブラシに興味を持たれることも多く、
人はともかく犬への電動ブラシは効果的なのか否か気になっていたところでした。

戸田功先生と川久保

とだ動物病院の戸田功先生と。

ところで今回の症例検討会は、前回に比べて研究と発表の精度を求められていると感じました。
前回の第23回は私も初めて参加したこともあり、人間の歯科の学会発表の雰囲気とはだいぶ異なり
穏やかというか、アットホームな流れに良い意味で驚いたのでした。

対して今回はたとえば用語の一つ一つについても、診断はその定義に当てはまるのか、など
きちっと追及する質問が相次ぎました。
「そこを突くか!なるほど!」
と舌を巻く質問が次々に出て、一面からのみの理解ではなく多方面から理解を構築している人の質問は
それを聴いている他の人の理解も深めるのだと実感しました。

私も塩見先生の電動歯ブラシについての発表を聴いている間、
調査がどの程度統制されているのか…
たとえば犬の歯磨きの姿勢は?
術者による技術の偏りは?
犬の歯の右側と左側での違いは?
与えている食餌による残渣の違いは?
そもそも犬種差については?
などなど気になることが山ほど出てきて、どうにもたまらず会場で質問の挙手をしてしまいました。
(前回の無麻酔歯石除去のときにかなり時間を頂いてしまったので、今回は自粛しようと思っていたのです。)
実はこの日はとても体調が悪く、薬の副作用で半ばもうろうとしていたのも忘れていて
いざマイクが回ってきたら声がかすれて出ない!
(うわ、ヤバイ!!)
挙手しておきながら声が出ないことに少し焦り、聞き苦しい上にまとまらない質問になってしまいましたが
かえってネチネチと追及することができず、これはこれで良かったのかもしれません(;´Д`)
もし叶うならば条件を統制した上でさらに調査を継続して欲しいと思うような症例発表でした。

こうした症例や研究の発表に対する質問は、質問者や聴衆の疑問を解決するだけでなく、
診断・治療や研究の精度を高めたり、今後の課題を発見したりする手助けとなりますが
研究や発表に慣れていない人の場合、厳しすぎる質問の応酬は心をくじくことにもつながりかねません。

話は飛びますが、今年私はシニア産業カウンセラー試験に合格しました。
産業カウンセラーの上位資格にあたるもので、まあそこそこ難易度の高い試験とされています。
私は受験資格はとっくに得ていたのですが、思うところあり産業カウンセラーからは背を向けていて、
今回合格しないと受験資格が翌年で失効してしまうので受験に踏み切ったのでした。

受験資格を得るまでのプロセスでは、とても厳しいスーパーバイザーに当たったこともありました。
スーパーバイザーとはカウンセラーが行うカウンセリングに指導をしてくれる人のことです。
「あのスーパーバイザーはカウンセラーを潰す」
とまで噂されている人でしたので、実のところどんな具合なのか悪趣味な興味もありました。
スーパーバイズを受けてみて、確かに歯に衣着せぬ言葉で辛らつだし、語調もきつくて
よくこれでこの人自身カウンセラーとしてやっているものだと思うほどの厳しさでしたが
言葉や語調の厳しさを置いておけば、スーパーバイズの内容は至極適切であり
カウンセラーとしての成長に必要不可欠なことばかりを語ってくれているのだと分かりました。

そんなスーパーバイザーのおかげもあってか、筆記試験も実技試験も一発で合格することができました。
そして実技試験では試験の場でありながら新たな視点を与えてくれるような素晴らしい試験官に巡り合い
合格だけでなく受験したことそのものが大きなステップを与えてくれたと実感したのでした。

話は戻って症例検討会や発表ですが、
厳しい質問をする人も、穏やかに見守る人も、
診断・治療や研究の発展、研究者や発表者の成長を願うということはどちらも同じです。

発表し質問を受け止める側も、
余計なフォローはなく単刀直入に言われたほうがクリアに理解できて良いという人もいれば、
ズバリ言われると心が凹んでしまうので穏やかな言い回しのほうが良いという人もいます。

見守る心、育てる心。
感じる心、受け止める心。

人それぞれなので、どちらが良いとかどちらが正しいということはできません。
また誰の心にも、厳しい自分と愛護的な自分がいることでしょう。
これらがうまくマッチすることが大切なのだと思います。
そんな思いを導き出された症例検討会でした。

第24回日本小動物歯科研究会

今年はランチョンセミナーで美味しいお弁当が出ましたよ(^ρ^♪

蓮 「具合悪かったのにしっかり食べたんだ。で、無麻酔歯石除去のアンケートの結果は?」

 

 

 

1.無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~

1.歯科医学の面から 

その3 エックス線撮影ができない問題

犬猫などの「無麻酔歯石除去」ではポリッシングができず、
かえって歯石が付きやすい状態になってしまうことを前回お話しいたしました。
(前回の記事→「無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~」)

今回はさらに大きな危険につながる、「エックス線撮影ができない問題」についてお話しいたします。

人間の歯科の場合は、歯周病の治療の際にはエックス線撮影(レントゲン撮影)を行います。
それにより肉眼では見えない部分の歯石の付着、その部位や量、大きさ、
歯の根の形、
歯周病による歯槽骨の吸収の度合い、吸収されている部位、形などを知ることができます。
私も歯科医として診療している中で、
表面から見るとあまり歯周病が進行していなさそうに見えるのに
エックス線画像で確認すると歯周ポケットのとても深い所に歯石がごっそり付いている
というケースをいくつも診たことがあります。
エックス線撮影をしなければこれらの歯石は見落とされてしまったことでしょう。
(「無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~
も併せてお読みください。)

さらに、歯周病におかされると歯槽骨(しそうこつ)という、歯を支えている骨がしだいに吸収されてなくなっていき、
やがてはあごの骨までも吸収が進んでいきます。

犬の顎骨(正常)

青い線が概ね正常な犬の顎(下顎)の骨のラインです。
これが歯周病におかされて吸収されると、たとえば下の絵の赤いラインのようになります。

犬の顎骨(吸収像)
犬猫、特に猫や小型犬のあごの骨はもともと非常に細く、
そこに歯周病による顎骨の吸収が起きると、残された骨の太さ(厚さ)はほんの2~3mmとなってしまいます。

ちょっと想像がつかない?
では少しリアルな絵で見てみましょう。

犬の顎骨エックス線写真風

蓮「ねえ…この絵は?」
描いた。
蓮「は!?」

先ほどの赤いラインまで歯槽骨が吸収された状態をエックス線撮影すると、
こんな風に写ります。
こんな状態で歯石取りのために力を加えでもしたら、
あごの骨は簡単に折れてしまいます。
事実、歯周病にかかっている犬猫の顎骨の骨折は珍しくはなく、
「ほんの少しぶつけただけで…」
「一緒に飼っている他の犬とじゃれ合っているうちに…」
など、本当にふとしたはずみで骨折してしまいます。
そして、他所で受けた歯石除去の処置によって骨折した犬猫が他院に回されてくるということも昨今増えているといいます。

歯周治療でのエックス線撮影が、治療の上でも安全の上でも重要なのがお分かりいただけるかと思います。

動物病院、トリミングサロン、ペットショップ、出張サービスなど無麻酔歯石除去を行っているところは色々ありますが、
トリミングサロンやペットショップ、出張サービスなどでは当然エックス線撮影ができません。
結果、歯周病が進行しているのに気付かず処置をして
歯周病の悪化につながるばかりか、骨折など
かえってひどい事態に至らしめてしまうことがあるのです。
エックス線撮影による検査は歯周病治療に欠かせません。
そして何度も言いますが歯石除去は医療行為であり、治療と予防の一環です。
犬・猫などの歯石除去は、きちんと検査を行う動物病院で受けるようにしましょう。

次回、「犬をはじめとする動物の無麻酔歯石除去の問題をドッグトレーニング・歯科医療・心理学の面から語る その2. 無麻酔歯石除去の問題~犬猫など動物の心理としつけの面から~」に続きます。

 

無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~

1. 歯科医学の面から

その2 ポリッシングができない問題

前回、無麻酔歯石除去では歯肉縁下歯石が取れないので歯周治療には不十分というお話をしました。
(→無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~
今回は、無麻酔歯石除去の次のデメリットとして「ポリッシングができない問題」について語ります。

歯石除去(スケーリング)は、ハンドスケーラーという金属製の器具や超音波スケーラーを用います。
無麻酔歯石除去を謳っている業者はよく

「ハンドスケーラーで丁寧に取るのでワンちゃんにやさしいです」
「超音波スケーラーを用いるので安全です」

などと宣伝していますが、どちらも正しくはありません。
ハンドスケーラーは鋭利な刃物ですから、扱い方や動物の急な体動などで
歯や歯肉、頬、顔面、目などを傷つけるおそれ
があります。
超音波スケーラーは刃物ではないので安全そうに見えますが、
高速の振動により発熱するので、こちらも使い方を熟知していないと
歯の中の歯髄(神経や血管など)を痛め、
強い痛みや歯髄壊死(しずいえし・神経が死ぬこと)を引き起こす危険性があります。
ついでにもう一つ言えば、超音波スケーラーはその特性を活かすため(キャビテーション)と
発熱を抑えるために水を出しながら使うのですが、
無麻酔歯石除去でこれを行うのはとても困難で、気管に水が入るなどの危険性もあります。
(後述します)

そして、ハンドスケーラーでも超音波スケーラーでも、
歯石除去を行った後は歯面(歯の表面)がザラザラに傷つくものです。

昔、こんなことがありました。
ある人に

「なんだかよぅ、俺の歯、一本だけ色がおかしいんだよ。何だろうなぁ、見てくれないかなぁ」

と言われたことがありました。
見ると、ある一本だけくすんだ灰色になっていて、まるで歯髄壊死を起こした歯のようになっています。

しかし、歯髄壊死のきっかけになるような虫歯も歯周病もありません。

「この歯を強く打ったり、過去に強い痛みがあったことは?」
「ねぇんだよ。なんだろうねぇ…」

うーん…?
そこでさらに気になったのは、この人のタバコのヤニのあと。
む、もしや。

「もしかして、ヤニなどを取ろうとして歯を引っかいたりしたことはありませんか?」

「おお、あるある!ヤニが気になるからよ、マイナスドライバーでこすったんだよ!」

これでした。

ドライバーでこすったために歯の表面に傷が付き、
その傷がさらにヤニや汚れ(色素沈着)を招き、色がおかしくなっていたのでした。

スケーリングの後もこれと同じような状態になります。
肉眼的にはほとんど分かりませんが、歯の表面が荒れてザラザラになっているので
そのままだとかえって歯石が付きやすくなるのです。
そこで研磨剤とブラシやゴムでできた器具(ラバーカップ)を使って、歯の表面をツルツルに仕上げる
「ポリッシング」という処置が必要になります。

ポリッシング器具撮影協力:河野歯科クリニック

しかし、無麻酔歯石除去ではこのポリッシングも行うことが困難です。

まず、ブラシやラバーカップでの研磨はゴリゴリとした音と振動があります。
実際に歯科医院でこの処置を受けたことがある方は分かると思いますが、かなりの振動ですよね。
特に上の歯などは振動がダイレクトに上あごや頭蓋骨に伝わるので結構不快です。
前回の記事で書いたように、スケーリングと同様、ポリッシングも
犬や猫が恐怖や嫌悪感を感じることなく、おとなしく受けられるとは思えません

次に研磨剤の問題があります。

ポリッシング終了後は研磨剤をしっかりとすすいでおくことが大切です。
研磨剤が口の中に残ると不快だという理由だけでなく、
研磨剤の粒子が歯周ポケットの中に残っていると、
それが刺激となって歯周病を進行させるおそれがあるからです。

人間の場合はスリーウェイシリンジ(歯科医院で使う、圧縮空気や水が出る水鉄砲のようなアレ)で
きれいに洗浄できますし、ポリッシング終了後に自分で口を濯ぐこともできます。
ですが犬猫の場合は?
スリーウェイシリンジで洗浄しようものならビックリして暴れるでしょうし、
その水が気管に入ってむせたり、誤嚥性肺炎などを起こす危険性もあるでしょう。
自分で「ブクブクうがい」などできませんから、
研磨剤は長い間口の中や歯周ポケット内に留まります。

一方、麻酔下であれば
研磨剤を水で洗浄することも可能ですし、
気管内チューブを入れているので呼吸を妨げたり、むせたりすることもありません。

このような理由で、無麻酔歯石除去ではスケーリング後の大事な処置である
「ポリッシング」が不可能であるか、無理におこなってかえってリスクを高めるといえます。

無麻酔歯石除去ではポリッシングをせず歯石を取るだけの所も、ポリッシングもしているという所もありますが、
こうしたことを知らないか、危険を容認しているかのどちらかと言わざるを得ません。

 

→次回、「1. 無麻酔歯石除去の問題~歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~」に続きます。

 

 

獣医学総合誌MVMに川久保の「犬猫の歯みがき指導」掲載

2015年7月1日発売の獣医学総合誌「mvm」に、川久保が書いた
「飼い主さんに伝わる歯みがき指導」が掲載されています!

mvm156号の特集は
「犬猫の歯の健康のために」
なんと、156号と157号の2号にわたり、前編と後編での特集なのです。
まさに、犬猫の歯科やオーラルケアに関する意識とニーズが高まっている表れです。

執筆者は日本小動物歯科研究会の会長である藤田桂一先生(フジタ動物病院)、
大場茂夫先生、大風百合子先生(日本大学動物病院歯科)、
網本昭輝先生(アミカペットクリニック)、
江口徳洋先生(千村どうぶつ病院)、
幅田功先生(センターヴィル動物病院)

また、レポートとして、とだ動物病院の戸田功先生も
「飼い主に正しいデンタルケアを指導するコツ」
を書かれています。

いずれも動物歯科の第一人者という、そうそうたるメンバーです。
その中で、川久保純子(Ataraxia)が記事を書いています。

大変な栄誉です。いいんでしょうか~(;´∀`)

題は

「飼い主さんに伝わる歯みがき指導」

歯科医師としての歯科知識やTBIの経験に、
教職時代の経験、ドッグトレーナーとしての経験と知見、
さらにはカウンセラーとしての心理的な知見を交え
「歯みがき指導がどうして伝わらないか」
「そもそも、伝わっているとはどういう状態か」
「どうしたら『できる』ようになるのか」
を、インストラクショナルデザインの考え方をベースに解説しています。
犬猫の歯みがき指導をインストラクショナルデザインから解説しているのは、
おそらく本稿が初めてだと思います。

さらに!
なんと川久保の記事は、指導の方法とコツを解説した前編に加え、
「飼い主さんに伝わる歯みがき指導 実践編―歯みがき攻略の8ステップ―」
として、口に触れない動物が口を開けて歯の内側や咬み合わせ面を磨けるようになるまでも
懇切丁寧に写真付きで解説しています。

さらにさらに!!
MVM 156号に掲載されているパスワードを入力しますと
株式会社ファームプレスのMVM専用ページから
この「歯みがき攻略の8ステップ」の動画が視聴できるのです!!

この動画は、Ataraxiaの歯磨きレッスンを受講された方に差し上げている
Ataraxiaオリジナルの歯みがき解説DVDの動画の一部に加え、
MVM誌用に新たに撮り下ろしたものもあります。

MVMは獣医学の専門誌ですが
私の記事は「歯みがき指導」ということもあり、
獣医師の先生方をはじめ
歯みがき指導を現場で受け持つ可能性の高い動物看護師さんにもすんなりと読めるよう
できるだけ平易な文章で、なおかつMVMの格調高さを損なわないよう工夫したつもりです。

この記事は歯みがき指導をしたことがない、しているけれど手ごたえを感じられないという
獣医師の先生方、動物看護師の方々はもちろんのこと
一般の飼い主さんにも「犬猫の歯みがきの解説書」としても活用して頂ける内容と構成です。

Ataraxiaの歯みがきレッスンのエッセンスが惜しげもなく詰め込まれています。

蓮 「これを読めばAtaraxiaの歯みがきレッスンはいらないんじゃ…」

それはまた別の話です(^_^;)

専門誌ゆえ一般の書店やAmazon等ではお取り扱いがありませんが、
株式会社ファームプレスのサイトからオンラインでご購入できます。
http://www.pp-mvm.com/books/contents/60

ペットの歯みがきをお考えの飼い主様も、動物病院の先生方、スタッフの方々も
そのまま手引書として使える内容です。
(おっと、文章や写真、動画の流用はダメですよ^^;)

専門書なので少々お値段がはりますけれども、ぜひご一読のうえ
お手元に一冊置いて頂ければと思います。

川久保純子&蓮&MVM

無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~

1.歯科医学の面から

その1 歯肉縁下歯石が取れない問題

歯周疾患(歯周病)を引き起こしているのは、いくつかの種類の歯周病原細菌です。
よく歯石が歯周病の原因かと思われていますが、
歯石は歯垢(しこう・プラーク)(歯についた汚れや細菌、細菌が産生したものなど)に
カルシウムなどが沈着し固まったもので、歯周病の直接の原因ではありません。
歯石の中にいる細菌も死んでいます。
まずは歯周病になるしくみをかいつまんでお話しておかなければなりません。

正常歯周組織

これは正常な歯と歯肉、歯を支えている骨(歯槽骨)の模式図です。
(小さくて見えない場合はクリックかタップすると拡大して表示されます。)

お口の中にいる菌には、大雑把に分けて「酸素がある環境が好きな菌」と「酸素がない環境が好きな菌」がいます。
歯の表面に細菌が付着すると、まず「酸素がある環境が好きな菌」が増殖し、歯肉に炎症を起こします。
「歯肉炎」とよばれる状態です。
歯肉縁

歯と歯肉の隙間には「歯肉溝」という深さ1~2mm程度の溝が存在しています。
歯肉に炎症が起きると歯肉が腫れて、この溝が深くなります。
すると、溝の中は酸素が少ないので、この中に「酸素が無い環境が好きな菌」が増殖してくるのです。
この菌は酵素や毒素、様々な物質を産生し、
それによって歯肉や歯の周りの組織が破壊され、歯周ポケットもどんどん深くなります。
やがて歯を支えている骨も吸収されて減っていき、支えを失った歯はぐらぐらし、やがて抜けてしまう…
こういう流れをたどります。

歯周ポケット形成・歯槽骨吸収

 

ではなぜ歯石が問題視されるのかというと、

* 歯石の表面が粗いので、さらに汚れや細菌がつきやすくなる
* 硬くてさらざらした歯石が歯肉を刺激する

などの理由で歯周病を悪化させる一因となるからです。

そこで「歯石除去」となるわけですが、歯石には大まかに分けて2種類あります。
歯の表面、歯肉の縁の上に付いていて、見て確認できる「歯肉縁上歯石」と、
歯肉の縁の下、歯と歯肉のすき間の中に付いている「歯肉縁下歯石」です。

歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石
歯周病では歯肉縁下歯石が特に問題となります。
歯肉縁上歯石だけ取ってもあまり意味はありません

ところが、歯肉縁下歯石は歯と歯肉のすき間の中に付いているので、
麻酔なしで取ろうとすると痛みを伴います。時には出血もあります。
すでに歯周病にかかっていて歯肉に炎症があると、痛みや出血はより増します。
私達人間でも歯肉縁下歯石を取るのは痛いので、麻酔をして行います。
よく歯科医院では「痛かったら左手を上げて教えてくださいね」
というように、処置を受ける必要性が理解できていて我慢ができる人間ですら耐えられないことがあるのですから
動物が我慢して大人しくしていられないのは当然です。
動物ですから口を十分に開けなかったり、抵抗したり、暴れたり、咬んだりするでしょう。
そのような理由で動物の歯肉縁下歯石を無麻酔で取ることは不可能なのです。
(もし大人しくしているとすれば、それは恐怖ですくんでいるからでしょう。)

 

→次回、「1. 無麻酔歯石除去の問題~歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~」に続きます。

犬をはじめとする動物の無麻酔歯石除去の問題をドッグトレーニング・歯科医療・心理学の面から語る

こんにちは、歯科医師の川久保です。

蓮「あれ?今回は歯医者さんモード?」

今回は、最近よく見かけるようになった「無麻酔歯石除去」についてのお話を
歯科医師・ドッグトレーナー、そしてカウンセラーとしての面からお話しいたします。

無麻酔歯石除去が犬猫等に与える問題に関しては、少しずつではありますが
ようやく一般的にも知られるようになってきたように思えます。
それは主に、歯や歯肉のためにならない、危険であるという歯科医学の面や
動物に強い恐怖心を与えてしまうという、しつけや動物の心理の面で語られることが多いようです。
これらは当然のことでありますが、私は「無麻酔歯石除去」の「資格」を求める人間側の問題も常々感じています。

しばしば誤解されるのですが、Ataraxiaは犬のしつけ教室や歯磨き教室など動物に特化したサービスではなく
その理念は

「人も、動物も」

です。

無麻酔歯石除去に限った話ではなく、
あるテーマが与える影響を人と動物の両面から考え、提言しています。

無麻酔歯石除去については以下の面から数回に分けて語っていこうと思います。
(ブログ記事をアップしたタイトルにはリンクが貼ってあります。)

序章 無麻酔歯石除去という言葉が与えるイメージ
1. 無麻酔歯石除去の問題~歯科医学の面から~
 その1 歯肉縁下歯石が取れない問題
 その2 ポリッシングができない問題
 その3 エックス線撮影ができない問題
2. 無麻酔歯石除去の問題~犬猫など動物の心理としつけの面から~
3. 無麻酔歯石除去の問題~心理学・キャリア心理学の面から~

序章 無麻酔歯石除去という言葉が与えるイメージ

「無麻酔歯石除去」、この言葉を聞いてあなたはどんなイメージを持ちますか?
よく、商品では

無添加化粧品
無農薬野菜

のように、「無」の後には「悪いもの」のイメージの言葉が続きます。

インターネットを使用している人なら、

「○歳 女が、ある「無添加」を飲んだら…」

という広告を目にしたことがあるかも知れません。
このコピーに至っては、もはや無添加の何なのかすら書いていません。
「ある生姜ドリンクを飲んだら…」
でも、
「あるかぼすエキスを飲んだら…」
でもありません。
「無添加」
この言葉が読み手に与える「良いものだ」「安全なものだ」というイメージのみに訴えています。
非常にインパクトのある広告だと思います。

無麻酔歯石除去も

無→麻酔

ということによって、

麻酔とは悪いものだ
麻酔は無いほうが良いものだ

というイメージができ上がります。
多くの人の間では、麻酔は怖いもの、全身麻酔は危険なもの、というイメージでとらえられていますから
その裏返しで、「無麻酔」というだけで

安全なものだ!
すごくいいものだ!

という印象になります。

麻酔を使わないから安全…
麻酔を使わないから、犬や猫の体にやさしい…
麻酔を使わないから良心的…
本当にそうなのでしょうか。

 

→次回、「1. 無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~」に続きます。

犬、猫、小動物の「歯磨きアンケート」ご協力のお願い

犬、猫、小動物の飼い主様にお願いです。
Ataraxiaではこれら伴侶動物(ペット)のお口の健康の啓発活動の改善・向上のために
飼い主様から実際のお声を伺いたいと思っています。
そこで、簡単なアンケートを行うことにしました。

内容は動物の歯磨き事情や歯磨き教室についてです。

無記名で、ほぼ選択するだけ、全部で10問の簡単なアンケートです。
もちろん何かご意見があれば自由に書き込むこともできます。
アンケートの結果は等サイトでお知らせし、今後の活動に役立たせて頂きます。

どうぞご協力をお願いいたします!

スマートフォン等でアンケートが表示されない方は、下のリンクからお願いいたします。
https://jp.surveymonkey.com/s/TBND5HL

オリジナルのフィードバックアンケートを作りましょう

 

 

美容無麻酔歯石除去、ですって!?

動物の「美容無麻酔歯石除去」なんて言葉が出てきました。

犬猫等、動物のお口の健康への意識が高まるにつれ、歯石除去のニーズも高まってきました。
一方で「無麻酔歯石除去」の問題が広がっていることは、
Ataraxiaのサイトやブログなどでも折につけお話をしています。

ところが今度は「美容無麻酔歯石除去」という言葉が出てきて驚いています。
「美容」を付けることで、これは医療行為ではないということを暗にほのめかしているようです。
色々な手口にびっくりです。
人間でも、目や眉に入れ墨を入れる行為を「アートメイク」と称し、
医師の資格を持たない人が行うことがしばしば問題となっているのに似ています。

視点を変えれば、無麻酔歯石除去の危険性や為害性が知れ渡ってきたために、
こうしたやり方で逃げ道を作り、生き残ろうとしているのかも知れません。

無麻酔歯石除去や美容無麻酔歯石除去について、
中には治療目的ではなく美容目的であると謳っている所もあり、
それはペットショップやトリミングサロン、トリマーにとどまらず、獣医師でもそのように言っている人もいます。
「麻酔をかけての歯石除去は医療目的、無麻酔での歯石除去は美容目的。これが違いです」
と説明している獣医師もいます。

歯石除去の目的が麻酔の有無で区別されるなど、そんな区切りはありません。
歯石を取れば見た目もきれいになるというだけで、歯石除去という行為は医療行為です。

そして
「どちらが良いかは飼い主さん自身が決めて下さい。」
と…。

嘆かわしいです。
飼い主さんに「自己決定」させることがインフォームドコンセントだとでもはき違えているのでしょうか。
無麻酔歯石除去が動物にとって大変危険であることはもはや自明です。
獣医師はこうしたデメリットを飼い主に正しく分かりやすく説明するのが義務です。
全身麻酔をかけることとかけないこと、歯石除去を行うことと行わないこと、
それぞれのメリットとデメリットを飼い主に説明し(もちろん分かりやすく、です)
病気がある、高齢であるなど全身麻酔の負担が大きいときは
代替案なども考えながら、飼い主が納得して治療に同意できるようにすること。
それがインフォームドコンセントです。
正しい説明もせず判断を飼い主に丸投げするような所は、何かがあったときに

「あなたが決めたことですから、あなたの責任です。」

とでも言いかねません。

また、歯磨き教室を行っているトリミングサロンやペットショップ、動物病院ならば
正しい情報をくれるような気がするかも知れませんが、そうでもありません。
犬や猫の歯みがき教室が無麻酔歯石除去の宣伝とセットになっている所が増えています。
イメージに惑わされないようにしてください。

歯石除去は目的のいかんに関わらず医療行為です。
無麻酔歯石除去によってかえって歯周病が酷くなったり
あごの骨を骨折したり口の中や目や顔などを傷つけるという事故も起きています。
意識がある状態での歯石除去は、動物の心に深い恐怖不快感をもたらします。
それがたとえ、おとなしくしていたとしても、です。

あなたの大切なパートナー、大事な犬や猫を思うなら
トリミングサロンやペットショップ等で受けないで、
正しい動物歯科の知識を持つ獣医師のもとで受けて下さいね!!