1.無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~

1.歯科医学の面から 

その3 エックス線撮影ができない問題

犬猫などの「無麻酔歯石除去」ではポリッシングができず、
かえって歯石が付きやすい状態になってしまうことを前回お話しいたしました。
(前回の記事→「無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~」)

今回はさらに大きな危険につながる、「エックス線撮影ができない問題」についてお話しいたします。

人間の歯科の場合は、歯周病の治療の際にはエックス線撮影(レントゲン撮影)を行います。
それにより肉眼では見えない部分の歯石の付着、その部位や量、大きさ、
歯の根の形、
歯周病による歯槽骨の吸収の度合い、吸収されている部位、形などを知ることができます。
私も歯科医として診療している中で、
表面から見るとあまり歯周病が進行していなさそうに見えるのに
エックス線画像で確認すると歯周ポケットのとても深い所に歯石がごっそり付いている
というケースをいくつも診たことがあります。
エックス線撮影をしなければこれらの歯石は見落とされてしまったことでしょう。
(「無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~
も併せてお読みください。)

さらに、歯周病におかされると歯槽骨(しそうこつ)という、歯を支えている骨がしだいに吸収されてなくなっていき、
やがてはあごの骨までも吸収が進んでいきます。

犬の顎骨(正常)

青い線が概ね正常な犬の顎(下顎)の骨のラインです。
これが歯周病におかされて吸収されると、たとえば下の絵の赤いラインのようになります。

犬の顎骨(吸収像)
犬猫、特に猫や小型犬のあごの骨はもともと非常に細く、
そこに歯周病による顎骨の吸収が起きると、残された骨の太さ(厚さ)はほんの2~3mmとなってしまいます。

ちょっと想像がつかない?
では少しリアルな絵で見てみましょう。

犬の顎骨エックス線写真風

蓮「ねえ…この絵は?」
描いた。
蓮「は!?」

先ほどの赤いラインまで歯槽骨が吸収された状態をエックス線撮影すると、
こんな風に写ります。
こんな状態で歯石取りのために力を加えでもしたら、
あごの骨は簡単に折れてしまいます。
事実、歯周病にかかっている犬猫の顎骨の骨折は珍しくはなく、
「ほんの少しぶつけただけで…」
「一緒に飼っている他の犬とじゃれ合っているうちに…」
など、本当にふとしたはずみで骨折してしまいます。
そして、他所で受けた歯石除去の処置によって骨折した犬猫が他院に回されてくるということも昨今増えているといいます。

歯周治療でのエックス線撮影が、治療の上でも安全の上でも重要なのがお分かりいただけるかと思います。

動物病院、トリミングサロン、ペットショップ、出張サービスなど無麻酔歯石除去を行っているところは色々ありますが、
トリミングサロンやペットショップ、出張サービスなどでは当然エックス線撮影ができません。
結果、歯周病が進行しているのに気付かず処置をして
歯周病の悪化につながるばかりか、骨折など
かえってひどい事態に至らしめてしまうことがあるのです。
エックス線撮影による検査は歯周病治療に欠かせません。
そして何度も言いますが歯石除去は医療行為であり、治療と予防の一環です。
犬・猫などの歯石除去は、きちんと検査を行う動物病院で受けるようにしましょう。

次回、「犬をはじめとする動物の無麻酔歯石除去の問題をドッグトレーニング・歯科医療・心理学の面から語る その2. 無麻酔歯石除去の問題~犬猫など動物の心理としつけの面から~」に続きます。

 

無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~

1.歯科医学の面から

その1 歯肉縁下歯石が取れない問題

歯周疾患(歯周病)を引き起こしているのは、いくつかの種類の歯周病原細菌です。
よく歯石が歯周病の原因かと思われていますが、
歯石は歯垢(しこう・プラーク)(歯についた汚れや細菌、細菌が産生したものなど)に
カルシウムなどが沈着し固まったもので、歯周病の直接の原因ではありません。
歯石の中にいる細菌も死んでいます。
まずは歯周病になるしくみをかいつまんでお話しておかなければなりません。

正常歯周組織

これは正常な歯と歯肉、歯を支えている骨(歯槽骨)の模式図です。
(小さくて見えない場合はクリックかタップすると拡大して表示されます。)

お口の中にいる菌には、大雑把に分けて「酸素がある環境が好きな菌」と「酸素がない環境が好きな菌」がいます。
歯の表面に細菌が付着すると、まず「酸素がある環境が好きな菌」が増殖し、歯肉に炎症を起こします。
「歯肉炎」とよばれる状態です。
歯肉縁

歯と歯肉の隙間には「歯肉溝」という深さ1~2mm程度の溝が存在しています。
歯肉に炎症が起きると歯肉が腫れて、この溝が深くなります。
すると、溝の中は酸素が少ないので、この中に「酸素が無い環境が好きな菌」が増殖してくるのです。
この菌は酵素や毒素、様々な物質を産生し、
それによって歯肉や歯の周りの組織が破壊され、歯周ポケットもどんどん深くなります。
やがて歯を支えている骨も吸収されて減っていき、支えを失った歯はぐらぐらし、やがて抜けてしまう…
こういう流れをたどります。

歯周ポケット形成・歯槽骨吸収

 

ではなぜ歯石が問題視されるのかというと、

* 歯石の表面が粗いので、さらに汚れや細菌がつきやすくなる
* 硬くてさらざらした歯石が歯肉を刺激する

などの理由で歯周病を悪化させる一因となるからです。

そこで「歯石除去」となるわけですが、歯石には大まかに分けて2種類あります。
歯の表面、歯肉の縁の上に付いていて、見て確認できる「歯肉縁上歯石」と、
歯肉の縁の下、歯と歯肉のすき間の中に付いている「歯肉縁下歯石」です。

歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石
歯周病では歯肉縁下歯石が特に問題となります。
歯肉縁上歯石だけ取ってもあまり意味はありません

ところが、歯肉縁下歯石は歯と歯肉のすき間の中に付いているので、
麻酔なしで取ろうとすると痛みを伴います。時には出血もあります。
すでに歯周病にかかっていて歯肉に炎症があると、痛みや出血はより増します。
私達人間でも歯肉縁下歯石を取るのは痛いので、麻酔をして行います。
よく歯科医院では「痛かったら左手を上げて教えてくださいね」
というように、処置を受ける必要性が理解できていて我慢ができる人間ですら耐えられないことがあるのですから
動物が我慢して大人しくしていられないのは当然です。
動物ですから口を十分に開けなかったり、抵抗したり、暴れたり、咬んだりするでしょう。
そのような理由で動物の歯肉縁下歯石を無麻酔で取ることは不可能なのです。
(もし大人しくしているとすれば、それは恐怖ですくんでいるからでしょう。)

 

→次回、「1. 無麻酔歯石除去の問題~歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~」に続きます。

犬をはじめとする動物の無麻酔歯石除去の問題をドッグトレーニング・歯科医療・心理学の面から語る

こんにちは、歯科医師の川久保です。

蓮「あれ?今回は歯医者さんモード?」

今回は、最近よく見かけるようになった「無麻酔歯石除去」についてのお話を
歯科医師・ドッグトレーナー、そしてカウンセラーとしての面からお話しいたします。

無麻酔歯石除去が犬猫等に与える問題に関しては、少しずつではありますが
ようやく一般的にも知られるようになってきたように思えます。
それは主に、歯や歯肉のためにならない、危険であるという歯科医学の面や
動物に強い恐怖心を与えてしまうという、しつけや動物の心理の面で語られることが多いようです。
これらは当然のことでありますが、私は「無麻酔歯石除去」の「資格」を求める人間側の問題も常々感じています。

しばしば誤解されるのですが、Ataraxiaは犬のしつけ教室や歯磨き教室など動物に特化したサービスではなく
その理念は

「人も、動物も」

です。

無麻酔歯石除去に限った話ではなく、
あるテーマが与える影響を人と動物の両面から考え、提言しています。

無麻酔歯石除去については以下の面から数回に分けて語っていこうと思います。
(ブログ記事をアップしたタイトルにはリンクが貼ってあります。)

序章 無麻酔歯石除去という言葉が与えるイメージ
1. 無麻酔歯石除去の問題~歯科医学の面から~
 その1 歯肉縁下歯石が取れない問題
 その2 ポリッシングができない問題
 その3 エックス線撮影ができない問題
2. 無麻酔歯石除去の問題~犬猫など動物の心理としつけの面から~
3. 無麻酔歯石除去の問題~心理学・キャリア心理学の面から~

序章 無麻酔歯石除去という言葉が与えるイメージ

「無麻酔歯石除去」、この言葉を聞いてあなたはどんなイメージを持ちますか?
よく、商品では

無添加化粧品
無農薬野菜

のように、「無」の後には「悪いもの」のイメージの言葉が続きます。

インターネットを使用している人なら、

「○歳 女が、ある「無添加」を飲んだら…」

という広告を目にしたことがあるかも知れません。
このコピーに至っては、もはや無添加の何なのかすら書いていません。
「ある生姜ドリンクを飲んだら…」
でも、
「あるかぼすエキスを飲んだら…」
でもありません。
「無添加」
この言葉が読み手に与える「良いものだ」「安全なものだ」というイメージのみに訴えています。
非常にインパクトのある広告だと思います。

無麻酔歯石除去も

無→麻酔

ということによって、

麻酔とは悪いものだ
麻酔は無いほうが良いものだ

というイメージができ上がります。
多くの人の間では、麻酔は怖いもの、全身麻酔は危険なもの、というイメージでとらえられていますから
その裏返しで、「無麻酔」というだけで

安全なものだ!
すごくいいものだ!

という印象になります。

麻酔を使わないから安全…
麻酔を使わないから、犬や猫の体にやさしい…
麻酔を使わないから良心的…
本当にそうなのでしょうか。

 

→次回、「1. 無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~」に続きます。

ドッグラン内でのリード

ドッグランには、大抵はその場所ごとに利用規約があります。
その中によく

「ドッグランに慣れていない犬の場合は、リードを付けたまま様子を見て下さい」

というようなものが書かれています。
この場合はリードを付けたまま遊ばせるというわけではなく、
犬が他の犬とどう接するか、ラン内でどのような態度でいるか「様子を見」て欲しいということです。
しかし、特に呼び戻しに自信のない飼い主さんなどが、リードを長く伸ばして遊ばせていることがあります。
ドッグラン内でリードを長く伸ばしていることは大変危険です。
長く伸びたリードで人や犬が足を引っ掛けて転んだり、ケガをしたりすることがあります。
リードを付けたままドッグラン内で犬を放している方もいますが、これも危険です。
リードの持ち手の輪の部分に他の犬が脚を絡めて、骨折等の大けがを引き起こすおそれがあります。

ところで、あるドッグラン内で伸縮リードを使っていた方がいて、
そのリードが別の飼い主さんの脚に絡みついてしまいました。
犬は突発的に走り出したりするものです。
この状況で伸縮リードを付けた犬が突発的に走り出してしまうとどうなるでしょうか。
リードで激しくこすれ、絡まれた脚は皮膚がめくれたり切れたりやけどのような状態になります。
人間の身体でも大変なケガになりますが、これが犬の身体だったらどうでしょう
手足を失ったり命にかかわるケガになったりすることも十分あり得るのです。
また、伸縮リードを付けた犬が走り出したのを止めようとして、
とっさに伸縮リードをつかんでしまい、このようなケガをするという話もよく聞きます。
ドッグラン内で犬の様子を見るときは、リードは短く持って、他の犬や飼い主さんに十分注意しましょう。

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伸びるリードで遊ぶときは、他の人やワンちゃんのいないところでね!

 

 

子供を犬に慣らす。犬を子供に慣らす。

今日の日中は晴れてとても暖かい日でした。
私も蓮のお気に入りの公園までお散歩に出かけました。
そこで、とても素敵な体験をしました…。

蓮

 

 

 

 

 

 

赤ちゃんを連れた女性が、「犬に近付いてもいいですか」と声をかけて下さったのです。
赤ちゃんはおそらくお孫さんでしょうか。

犬と歩いていると、よく小さなお子様連れの方に出会います。
お子様を犬に慣らしたくて近付けてくる方も少なくありません。

しかし、犬にとって「人間の子供」は、人間の大人とは別の生物と認識されていると言われています。
犬自身が子犬の頃から、人間の子供とふれあう機会が十分にあり慣れていればいいのですが、
そのような機会のなかった犬の場合、突如子供に近付かれると警戒して跳びかかったり、噛みついたりするおそれもあるのです。

子供を犬に慣れさせ、犬は怖いものではないということを覚えさせると同時に、
すべての犬が安全な犬とは限らないということも教えなければなりません。
しかし、そこができていない親御さんが多いように思えます。
小学生くらいの子供になると、犬をみかけると不用意に近付いて手を出してくる子が結構います。

そして、これと同じことが犬の飼い主にも言えます。
犬を子供に慣れさせ、怖いものではないということを学ばせなければなりません。
「うちは小さな子供と接する機会はないからそんな必要はない」 と思っているようなお宅でも、
散歩に出かければ子供は周りにたくさんいます。
子供に危害を加えないという安全のためももちろんですし、
子供に慣れていない状態でのお散歩は、愛犬にとって恐怖やストレスになることもあるのです。

今日お会いした女性は、子供を犬に慣れさせ、危険も教えるということをとても良くご存じの方でした。
赤ちゃんは蓮に興味津々で喜んでくれたようですし、子供好きの蓮もとても楽しませて頂きました。

人も犬も、お互いをよく知り、なじんだ社会になるといいですね。