第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会でドキドキ

2015年3月1日(日)、第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会に参加してきました。

日本小動物歯科研究会とは、動物の歯科医学の知識・技術の向上と啓発のために活動している会で
会員には獣医師はじめ動物看護師、歯科医師や歯科技工士もいるのです!
私もお仲間に加えて頂き、今回の参加を楽しみにしていました。

会場は品川フロントビル。

品川フロントビル

 この日の私は聴衆に徹し、ただひたすら聴いて勉強するつもりで、
ある意味では気軽に会場に入りました。

席を確保し、一旦場を外して戻ってくると、隣にはフジタ動物病院の高橋香先生が
にこやかな笑みを浮かべています。
イベントで高橋先生がいらっしゃる所という所に私が現れるので
高橋先生ストーカーみたいになっていますが、違うぞ。今回は(も)偶然だぞ。
しかし、この妙なご縁には笑ってしまいます。

このように穏やかな空気の中で会が開始。
歯周疾患にかかった小動物の口腔内からみられる多剤耐性菌についてや、
小動物の歯の疾患に対するBacteroides属(バクテロイデスぞく)の菌の関与など、
出だしから私の興味を激しく揺さぶるものが続きます。

私は歯科医としては歯周治療に力を入れていたので、
歯周疾患の多い犬猫の歯科にはとりわけ興味が掻き立てられます。
ナントカ菌とかカントカ菌なんて、一般の人にはちんぷんかんぷんかも知れませんが
齲蝕(うしょく、虫歯のこと)や歯周病などは細菌が関与して引き起こしているものなので、
歯科に携わるということは細菌への関心も高まるものなのです。

そして、高橋先生の
「イヌとヒトの歯周病原細菌における宿主特異性を規定する遺伝子因子の探索」

こういうの知りたかった!(・∀・)
人も犬も歯周病にかかります。
歯周病の原因となる細菌は人と犬とで同じものもあれば、違うものもあります。
(語ると長くなるので割愛します。)
高橋先生の演題をとても平ったく言えば、
人と犬の歯周病の主な原因菌の遺伝子的な違いを調べ
人と犬、それぞれへの感染について検討するというものです。

「人獣共通感染症」や「ズーノーシス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
文字通り、人と動物との間でお互いに伝染したり、されたりする感染症のことです。
犬の歯周病について、人⇔犬の相互感染が起きるのかどうか
私はずっと気になっていました。
このことに関して大きな示唆を与えてくれる、素晴らしい調査でした。

さらに…来ました。
センターヴィル動物病院の中野康子先生による
「無麻酔下でスケーリング(歯石除去)を行った結果、重度の歯周病にかかった犬の例」

全身麻酔をせずに行う歯石除去、通称「無麻酔歯石除去」。
本当にこれ、問題になっているんですよね…。
私もこの危険性為害性(害をなすこと)についてはかねてより警鐘を鳴らしており
時々Twitterでつぶやいたり、
このサイトでも啓発のための記事を書いている途中なのですが、
なかなか忙しくて公開に至れず、じれったく思っているところです。

中野先生の発表が終わった後も、会場に重い空気が流れたような気がしました。
司会を務めていらした、フジタ動物病院の藤田桂一先生も
無麻酔歯石除去への懸念を意見されていらっしゃいました。

(うんうん、そうだそうだ。)
頷きながら藤田先生のお話を聞いていると、

「~そこで、無麻酔による歯石除去について、今日会場にある方が来ています。」
おっ?
「その方は歯科医師でドッグトレーナーでもあります。」
いいっ!?
藤田先生の方を見ると…

「一言お話頂いて、いいですか?(ニコッ☆)」

藤田先生が私に神々しい笑顔とビームを放っています。
オオオオ…
聴衆と勉強に徹する、なんて気軽に構えていたら、すごい機会を頂戴してしまいました。

なんという光栄でしょう。
突然のことで準備していなかったので話はあまりまとまっていなかったと思いますが、
昨今問題になっている無麻酔歯石除去の中でも、
「無麻酔歯石除去の資格」なるものを付与したり、
それで「資格」を得た人がビジネスとして行っている問題について提言させて頂きました。

無麻酔歯石除去の資格ビジネスについては、
このサイトでもまた別の機会でお話できればと思っていますが
一般の飼い主さんの間では「全身麻酔=危険」、「無麻酔=安全」という一部誤解が浸透しています。
「無麻酔歯石除去」なる商法は、このイメージを利用しています。
動物歯科を正しく行っている動物病院などでも、歯石除去と麻酔の必要性についてお話をされているようですが
飼い主間での情報伝達や無麻酔歯石除去業者の宣伝の勢いの方が強く、
誤った認識と危険な無麻酔歯石除去がどんどん広まっていくことを私はとても危惧しています。

また、ご質問も頂き
スケーリング(歯石除去)をすることでかえって歯周組織を痛めているのではないか
という疑問に対する意見や、
無麻酔では歯石縁下歯石(歯周ポケットの中に付いている歯石のこと)の除去ができない問題(大きな問題です)、
食生活や唾液の性状によって歯石沈着に違いがあること
などについてもお話させて頂きました。

本当に、語り出すと言いたいことは数えきれないほどあり
ならばいずれ私も演者として何か発表したいと思うくらいでした。

語り足りないながらも、私の話に興味を持って下さった
獣医師の先生や歯科技工士さん、業者の方々もいらっしゃり、
その後の貴重なつながりを頂けました。

 2014年9月の日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)に参加したときも思いましたが、
獣医師の先生が、動物の歯科について、人間の歯科顔負けに熱心に取り組んでいらっしゃることに
感銘と言葉にならない胸の高まりを覚えました。
多分私は、嬉しいのだと思います。
人間の歯科医療の世界は、お世辞にもいい環境とは言えません。
獣医療界の方々が歯科に取り組んでいる姿はとても真摯で、
人間の歯科の世界に倦んでしまう気持ちをリフレッシュさせてくれるのです。
それに気のせいか、獣医学の集まりは温かいのです…。

歯科医師として。カウンセラーとして。ドッグトレーナーとして。動物看護師として。その他(笑)。
何の人だか良く分からないと言われますが、
色々やっている私だからこそできるものがあるはずと、気持ちも新たになりました。
こうしちゃいられません。
伴侶動物の歯科と正しいお手入れについて、
歯みがき(口腔ケア)を通じたコミュニケーションとトレーニングについて、
今後も力を入れて提言していきます!!

第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会 川久保

 

日本臨床獣医学フォーラム参加報告

去る2014年9月26日から28日までの三日間、日本臨床獣医学フォーラムに参加してきました。

私にとってこのフォーラムの目玉は、歯科!!
動物歯科の第一人者の先生方の発表が、出血大サービスと言わんがばかりに山盛りなのです。

歯が、歯があぁぁ~(≧▽≦)

日頃から歯科医師として、ドッグトレーナーとして、動物看護師として関心の高い動物歯科ですが
一般の飼い主さんにも伝わっている基本的な情報は私にとって当然物足りなく、
専門的な情報をもっと得たいと思っていたところで
これは外せない絶好のチャンスでした。

DSC_1670

場所は…

ホテルニューオータニ(2)

ホテルニューオータニ。

Ataraxia_JBVP2014 (1)

どんな講演が聴けるのか楽しみでなりません。

初日の26日は、とだ動物病院の戸田功先生によるランチョンセミナー
「歯磨きとStreptococcus salivarius K12の活用法」
と、
「動物看護師として知っておきたい歯科問診と診察時のポイント」
がありました。

Streptococcus Salivarius K12(ストレプトコッカス サリバリウス K12)は人間の歯科で注目を集めている細菌で、
口腔内にいる虫歯や歯周病の原因菌を抑える働きのある、
いわゆる「善玉菌」とされるものです。
もちろんSS-K12を使うだけでは不十分で、歯磨きでバイオフィルムという「細菌のバリア」を破壊するのは欠かせません。
これを犬猫にも応用するという試みです。
人間の歯科医療にも動物のオーラルケアにも関わっている私としては非常に興味深く、
今後の研究に期待が高まります。

ところが私は歯科医師なので、フォーラムの申込時に歯科医師という区分がなかったため
動物看護師として潜り込み参加しました。
動物看護師としても基本的にどのセミナーにも参加できるし、参加費用も安いのでしめしめ…
と思っていたらとんだ落とし穴で、
戸田先生とこの翌日に開催された藤田桂一先生の「獣医師限定」ランチョンセミナーには参加できないという盲点があったのでした!

悔しさを噛みしめながら、
「動物看護師として知っておきたい歯科問診と診察時のポイント」
に参加。
歯科に関心のない院長先生、これから手がけたい院長先生もいらっしゃるでしょうから
動物看護師が患者さんの歯科トラブルに気付き、治療につなげるという役割を持てるのはとても良いと思います。
ただの受付や助手ではなく、専門性を発揮できる役割として活躍することを望んでいる動物看護師も多いでしょう。
そうしたキャリア面でも有効ではないでしょうか。

二日目の27日は、歯肉炎を改善する動物用医薬品として承認されたイヌインターフェロンα製剤についてや、
フジタ動物病院の藤田桂一先生による
「歯周病の診断と基本的な治療手技について」

JBVP2014

これがまた…心に深くすとんと落ちるような内容で、
一つ一つがきちんとエビデンス(根拠)に基づいていて、
EBMを大事にされているのだろうということが伺えました。

医師は長年行っていると「独自の色」が出てきます。
医師独自の手技や「勘」が育つことで診断や治療の技術が向上するので良いのですが、
中には根拠のない「我流」に走ってしまう医師もいます。
「我流」は一見派手で、他にはない優れた技術であるかのような錯覚をもたらします。
人間の医科、歯科、獣医科に関わらずそうなのではないでしょうか。
しかし、それによって却って患者さんのためにならない結果を招いていることもこれまで見ているため、
学術的根拠に基づく内容を丁寧に話されてることに感服し、嬉しさを覚えたのでした。

次のランチョンセミナー「こんな時どうする?口腔疾患実践編」も聴きたくてたまらなかったのですが、
前述の通り獣医師限定…。
藤田先生は「僕は聴いてくれて構わないんですけどね」とおっしゃって下さいましたが、
今さら受付で「私、歯科医師なんですけど…」と交渉できる空気でもなく、
(そもそも、「あなた動物看護師で申し込んでいますよね?」と墓穴を掘ってしまいます^^;)
泣く泣く断念しました(T_T)

が、私の満たされない知識欲を補ってくれるかのようなものが!

JBVP_proceeding

プロシーディングです。
動物看護師向けはお値段控えめですが動物看護師用の内容のみ。
獣医師向けはお高いですがすべての内容が製本されたものかUSBメモリに入っているのです。

高い!そして厚い!でも、買いだ!!

「こ…こっち下さい」

動物看護師用の参加票を下げているのに獣医師向けを選んだ私を、
販売受付の人は暖かい笑顔で受け入れてくれました。
ありがとうございますありがとうございます。

 

三日目は、戸田先生による
「(歯科)年齢別・品種別のかかりやすいポイント」
「間違いやすいホームデンタルケアを改善しましょう」

JBVP2014

キタアアアアアア!!(≧▽≦)

これこれ、こういうの知りたかったんです!
私もAtaraxiaで歯磨きレッスンを行っているので、このセミナーで学ばせて頂いたことは非常に実践的でした。

また、ベテックデンティストリーの奥田綾子先生による
「抜歯の適応と基本手技」
「難抜歯の診断と外科的抜歯法」
は、人間の歯科で行っていることに動物歯科がここまで追随しているのだと
感嘆せずにはいられませんでした。

医師の治療スタイルには「攻めの治療」と「守りの治療」とでも言うべきものがあります。
攻めの治療は悪いところがあれば積極的にどんどんアプローチしていくスタイル、
守りの治療は現在症状がなければ経過観察をして、あまり積極的に介入しないスタイルです。
私は歯科医師としては「攻めの治療」スタイルだと自分では思っています。
奥田先生のセミナーを聴いて、
第一線の獣医師の先生方がこれ程までに「挑んでいる」ことに胸を打たれました。
場合によっては人間の歯科医の方が遅れを取っているかも知れません。
負けずに頑張らねばです。

今回の記事では歯科のことに絞りましたが、他にも

  • 東京大学の竹内ゆかり先生、日本獣医生命科学大学の入交眞己先生による動物の行動学(問題行動や常同行動)、
  • 犬山動物総合医療センターの太田亟慈先生による義肢装具学、
  • パル動物病院の小野啓先生の眼科学(犬の白内障や様々な眼科疾患)
  • アイデックスラボラトリーズ株式会社の平田雅彦先生による血液塗抹の観察
  • 北里大学の岩井聡美先生による腎臓病
  • 東京農工大学の福島隆治先生による循環器学(発作)

に参加し、ガッツリ勉強させて頂きました。

 

日本臨床獣医学フォーラムでは企業展示もあり、

JBVP

盲導犬や

 盲導犬展示

個人的に心くすぐられる外科器具…(笑)

動物外科器具

動物歯科の治療ユニットまでありました!!

動物歯科治療ユニット

歯科器材の株式会社モリタ製作所さんの機器は人間の歯科で随分お世話になっていますが、
動物歯科を行っている動物病院で見かける機材がモリタ製作所製だとは知りませんでした。
ああ~、親近感!!(≧▽≦)

これ、人間のものとは全く変わらず遜色ないスペックなんですよ。
動物歯科に注目と需要が高まっていることを感じさせます。

色々なアイテムを物色しながら歩いているときにふと目に留まり、
ブースの方にお声をかけて頂いたものがります。

それは…

エリザベスカラー

エリザベスカラー!!

なぜエリザベスカラーが目に留まったのか?
それは改めて別の記事でお話いたしますね。

 

今回のフォーラムで実感したこと。
それは、心ある獣医さんは正しいことを一生懸命広めようとしているということでした。
近年は人・動物に関わらず、根拠のない健康法や「代替医療」、「トンデモ医療」が横行しています。
動物歯科においても獣医師ではない者による「無麻酔歯石除去」なるものが出回っています。
医療やサービスを選択する際には、正しい選択ができるよう個人個人も正しい情報を得、
地に足着いた決定をする努力をして行く必要があると言えるでしょう。