「犬の口腔ケア大全」を受講しました

2107年2月21日、CACIOコンパニオンアニマルケア国際機構 特別講座
「犬の口腔ケア大全」を受講してきました。
講師はおなじみ、とだ動物病院の戸田功先生です。

私も犬の歯磨きやオーラルヘルスケアの啓発活動をするようになって幾年か経ちました。
私自身がセミナーの講師をすることもあるのですが、
「それなのに?」ではなく、「それだから」、信頼のできる新しい情報を常に取り入れていくことはとても大切だと思っています。

戸田先生の講演はいつも大人気だそうです。
私もペット栄養学会やJBVPなどで何度も拝見していますから、その人気には心から納得です。
定員になってしまっては困るのでかなり早くから申し込んで、この日を楽しみにしていました。

会場は渋谷にある専門学校ビジョナリーアーツ。
駅前が工事をしているせいで、いつ行っても何度行っても迷う渋谷です。
動物看護士認定試験の日にも迷いまくったイヤ~な思い出があるのですが、
今回はリベンジ!もう迷わない!!

…のつもりだったのですが、快適さを求めてJRではなく地下鉄で行ったのが失敗。
最寄りの出口から出られず、駅前工事のラビリンスにはまり、
頼みの綱のグーグルマップはグルグルマップ。

蓮「まさかまた迷っ…」

迷ってなどいない!遠回りをしただけだ!

…で、ようやく辿り着いた専門学校ビジョナリーアーツ。
暑さを避けてわざわざ地下鉄で行ったのに、余分に歩き回ったせいで結局汗をかきまくりです。
しかもここは…

学校!?

なんとトロピカルな…。
で、エレベーターに乗って目的階で降りると、そこはいきなり会場内で
薄暗い会場に人がたくさん集まり、プロジェクターで何かが投影されているではありませんか!?

どうも違う階に着いてしまったようです(-_-;)
またしても汗をかきました。

ようやく会場に着くと、もうすでに席はかなり埋まっていました。
定員は50人となっていましたが、もっといたのではないでしょうか。
さすが人気の講座。早めに申し込んでいて良かったです。

戸田先生に会釈をして席へ。
受講者の内訳は、獣医師・歯科医師(は私だけのようでしたが)が数名、次いで動物看護師、トリマー、その他ペット関連業といった具合でした。

以前にこのブログでも書いたようにトリマーによるデンタルケアや無麻酔歯石除去のことが懸案にあるのですが、
(→歯磨きと指導は誰がする?~第25回日本小動物歯科研究会症例検討会より~
トリマーの受講者が結構いることで、戸田先生も「トリマーの皆さんに言いたいことがあるんです」とおっしゃっていました。

講演のメインテーマは「間違えやすい口腔ケア」。
内容は
歯周病とは(歯周病の病態)、治療、症例、デンタルケア用品について、デンタルケアの方法など。
講演の合間時間で戸田先生に「先生が聞いてもつまらないのでは?」と言われましたが、

「ファンですので♡」

と即答(笑)
ジョークではなく、戸田先生の軽妙なお話はとても楽しいのです。
それに、専門は専門。
属している専門分野によって入ってくる情報の量・質・入手しやすさには違いがあります。
私は人間の歯科の専門ですので、人間の歯科の情報については最新の情報をいくらでも仕入れることができます。
しかし「動物の」歯科となるとそうは行きません。
やはり動物歯科を行っている獣医師の先生から聞くのが一番です。
「歯科」という共通の分野の中で、人間と動物の違いを知るのも私が感じている面白さの一つです。

講演中に戸田先生がいらして
「人間だったら歯周病の診断ではまず何をしますか?」
と話題を振られました。
もちろんプロービング(歯周ポケットの深さを測ること)やエックス線撮影を行います。
しかし動物ではプロービングもエックス線撮影も無麻酔で行うのは難しいので麻酔下で行います。
そうした違いは些細なことですが「人にできて動物にはできないこと」、
つまり動物の医療を考えるにあたり基本となる概念となるので重要であり、面白いのです。

たとえば無麻酔歯石除去の問題点や危険性はもうかなり知られるようになり、
私もこのブログで(まだ途中ですが)継続して発信を続けていますし、
今回の戸田先生の講義中でも力を入れて言及されていました。

「麻酔は体に悪いもの・危険なもの」という印象を持っている人は少なくないと思います。
(→序章 無麻酔歯石除去という言葉が与えるイメージ
確かに麻酔の事故で死亡したり後遺症が出ることも中にはあります。
しかしそれは全麻酔症例の中でどれだけの割合でしょうか。
患者の年齢・体格・体力・疾患や怪我・全身状態などで麻酔の影響も変わります。
それを一律に「危険である」と語るのはおかしなことです。
これは、人にも動物にも等しく言えることです。

では治療の際の麻酔を考えてみましょう。
自分が歯科の治療を受けるとき、麻酔は危険だから無麻酔で行って欲しいと思いますか。
できれば麻酔の注射すら全く痛くないようにして欲しいと願うのではないでしょうか。
眠っている間にすべて済んでくれたらいいのにと思ったことはありませんか。
「怖いから全身麻酔でして欲しい」
という、半分本気で半分冗談の声もよく聞くほどです。
スケーリング(歯石取り)も実はちょっと痛いときがありますよね。
歯周病で歯肉の状態が良くなければ、さらに痛みます。
超音波スケーラーの「キーン」という音や冷たい水、
ハンドスケーラーでこするガリガリという音や歯を引っ張られる感覚もなかなか嫌なものです。
それなのに犬猫の歯石除去では「麻酔は怖いから無麻酔で」となるのは妙な話です。
「この怖い思いや痛みをなぜ耐えなければいけないか」と考えて納得して受け入れることのできない犬猫こそ、
恐怖と痛みを取り除いてあげなければいけないのではないでしょうか。

このように、人と動物の同じ点・異なる点を冷静に、合理的に考えていかなくてはなりません。
何でも人と同じように考えてしまうと、動物としての本来の自然な姿や行動への理解を損ない、動物にとっては優しくない結果になることもあります。
しかし動物を心のないもののように考えてしまうと動物の痛みに気付くことができませんから、人に示す共感性のような洞察や想像力を動物に対しても示すことが求められます。
冷静・合理的というと「愛情がない」と捉えてしまう人もいますが、
愛情があるからこそ冷静に、合理的に考えるのです。
感情的になり、自分の感情や主観的な思いを犬猫などの動物に投影するのは愛情ではありません。

「無麻酔歯石除去」に話が飛びましたが、
この問題は麻酔を危険と思う飼い主側の知識や心だけでなく、
無麻酔歯石除去を行おうとする人の心理面にも大いに原因があると私は考えています。
これについては発信中のシリーズ「3. 無麻酔歯石除去の問題~心理学・キャリア心理学の面から~」で述べたいと思います。
今回の講演で戸田先生が始めの方におっしゃっていた
「トリマーの皆さんに言いたいこと」
も、おそらく最近増えている、トリマーによる歯石除去やデンタルケアについてではないかと思います。
時間がきてここまでは語られませんでしたが、どんな話がされるのかとても聞いてみたかったと思います。

時間の都合といえば、修了証の戸田先生のサインが直筆でした。
直筆サイン…このプレミア感…嬉しいですけど、受講者がたくさんいたので大変だったのではないかと心配になってしまいました(^^;)


講演時間が3時間もあると「長いなー」と思うものですが、
まるで時間の長さを感じず、楽しくて有意義な講演でした。
戸田先生、いつもためになる講演を有難うございます。
お休みの日はどうぞごゆっくりできますように。

 

 

歯磨きと指導は誰がする?~第25回日本小動物歯科研究会症例検討会より~

2017年3月19日、第25回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会が行われました。
日本小動物歯科研究会の症例検討会は私が毎年楽しみにしているものの一つです。

おなじみの会場。

ランチョンセミナーのお弁当も楽しみの一つ。お弁当だけが楽しみじゃないヨ。

初めて参加した3年前(→「第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会でドキドキ」)は、
歯科獣医療について私には物珍しく驚くことの連続でした。
なのにご指名を頂くといううれしはずかしビックリハプニングがあり、
無麻酔歯石除去の問題について提言させて頂き、嵐(?)を巻き起こしたのでした。

2度目の参加となる昨年は、大人しくしていようと思ったものの
犬への電動ブラシの効果についての発表に興味が湧いて湧いて、
どうしても質問せずにいられませんでした。
(→「第24回日本小動物歯科研究会症例検討会~育てるということ

学会やセミナーなどの会場では聴衆が数十人から数百人いる中で、質問する人はほんの数人。
「歯科医師の川久保と申します。本日は貴重なご発表を~」
という質問前のテンプレートな文言も、獣医療関係者の方がほとんどの中では目立つのです(^^;)
初めはアウェー感をひしひしと感じていましたが、
「ああ、あの人ね」
と徐々に受け入れられて来たように思えるのも、この会ならではの温かさかも知れません。
今回も
「お名前はかねがね聞いております」
と言われ、えええ、マジですか~と驚きつつ照れまくる一幕もありました。

私が犬猫の歯科について関心を持って数年、私の中でも歯科獣医療についての知識が増えていきますし、
獣医療界でも一般の飼い主様の間でも犬猫の歯科についての啓発と取り組みが進み、
参加するごとに会の雰囲気と症例発表の内容が変わってきているのを感じます。
それも参加の楽しみの一つでした。

今回最も気になったのは、21動物病院の鈴木正吾先生による
「トリマー向けデンタルケアの疑問についてのアンケート調査結果」
でした。
この調査の注目すべき点は、まず、調査対象(回答者)がトリマーであるということです。
私は常々、トリミングサロンやペットショップで行われている
歯磨きや「お口ケア」などのデンタルケアサービスに疑問を抱いてきました。
「犬猫の歯垢は約3日で歯石になる」
というのはよく知られるようになりましたが、
それならば多くてもせいぜい月数回行われるデンタルケアサービスに意味があるのだろうかと。
「お口のケアをしてもらった」
という飼い主の安心感が、逆に家庭でのこまめなケアを滞らせる一因となりはしないか。
そもそも歯科獣医療を専門的に学んだわけではないトリマーやスタッフが
正しいブラッシングやケアをできているのだろうか。
これは前回のブログ「磨いているけど、磨けていない?~歯磨きの「イ」と「ケ」の話
で書いたことにもつながります。
もっともトリマーだけではなく、近年は犬猫のデンタルケアの浸透に合わせて
ドッグトレーナーや生体販売のペットショップまでもが
デンタルケアサービスやセミナーを行うようになってきました。
周囲を見渡してみても、自分のペットの健康上の問題や疑問について
「ペットショップで相談した」
「ブリーダーに相談した」
「トリマーに相談した」
など非常に多いと思います。
ペットサービスという大きな枠組みの中で、「獣医療」との境界線が非常にあいまいであると感じていました。

発表内容に話を戻しますと、
・デンタルケアセミナーに参加した経験のあるトリマーは約70%
・デンタルケアの勉強をしたいトリマーは98%
・デンタルケアに悩んでいるトリマーは90%

なのだそうです。
トリマーの間でのデンタルケアへの関心と関与がいかに高いかが分かります。
そして
デンタルケアセミナーに参加した経験のあるトリマーのうち、25%が無麻酔歯石除去に興味があり、
・無麻酔歯石除去の方法を知りたい:22%
なのだそうです。

なんということでしょう!!

デンタルケアセミナーに参加していながら
無麻酔歯石除去に興味を持ったり、方法を知りたくなったりするとは
一体セミナーでは何を教え、何を学んでいるのかと言いたくなりますが
トリマーがこう思ってしまうのも責められない一面がある気がします。

上述の通りトリマーは飼い主からの相談を受けることが多くあります。
デンタルケアの相談を受けることもきっと増えてきていることでしょう。
その時に
「飼い主からのニーズに応えたい」
・答えられないようではトリマーとしての信頼が下がる
・ビジネスチャンスである
・何かしてあげたい
と思うのは自然なことです。
特にこの「信頼が下がる」と「何かしてあげたい」というのは
トリマーだけでなく専門職にありがちな「落とし穴」的心理であり、
こう思うあまりに自分の手に余るものや越権行為にあたる依頼を引き受けてしまうことがあります。
専門職として正しくあるのは、自分の実力(できることとできないこと)を素直に見極め、
能力的や立場的にできないものは、それが可能なところへつなげる(リファーするといいます)ことです。
できないものをできるところへつなげるのは、利用者(患者や顧客など)の利益を第一に考えることでもあり、
専門職者自身を守ることでもあるのですが、未熟であるとこれができず、
自分で背負い込んでしまうこともよくあります。
先程述べたように獣医療との境界があいまいなペットサービスではなおのことでしょう。

動物の「歯石除去」は麻酔の有無に関わらず「医療行為」なので
獣医師のみが行うべきなのは言うまでもないことです。
しかし歯磨きではどうでしょうか?

人間の場合は、平成17年7月26日の厚生労働省からの通達で
「重度の歯周病等がない場合の日常的な口腔内の刷掃・清拭において、
歯ブラシや綿棒又は巻き綿子などを用いて、
歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除き、清潔にすること」
は歯科医師法の規制対象にならないとされています。
つまりこの場合は歯科医師でなくても口腔内清掃ができるということです。
しかしあくまでも、
・重度の歯周病がなく
・歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除くこと
に限定されています。
重度の歯周病があればアウトですし、歯周病の診断は歯科医師でなければできません
歯周病がある、ない、初期だ、進んでいる、などと判断するのは診断にあたります。
行っていいのも汚れを取るだけですから、「歯磨き指導」などはできないわけです。

これを参考に動物について考えてみると、
重度の歯周病がなければ歯ブラシや歯磨きシートなどでお口の汚れを拭う程度のサービスなら
獣医師でない人が行っても問題ないのでは、と思えるかも知れません。
しかしながら動物の歯周病のチェックはやはり獣医師でなければできないわけで、
動物病院で歯周病の有無の診断を受けていない動物の場合は
歯磨きサービスの前にまず診断を受ける必要があるでしょう。
加えて、無麻酔歯石除去の問題で述べたことがありますが、
進行した歯周病の場合はあごの骨が吸収されて細く薄くなっており、
マズル部分に少し力が加わっただけでも骨折してしまうことがあります。
歯磨きサービスでも同じことがいえるでしょう。
(→「1.無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~」)

さらに言えば、繰り返しになりますが
歯科の専門教育を受けたわけではない人にどれだけきちんとした歯磨きができるのか、
という疑問があります。
たかが歯磨き…ではなく、
世界中の歯科大学や歯学部ではブラッシング(歯磨き)についての研究が行われており
実は非常に奥が深いものなのです。
そしていうまでもなく、「歯磨き指導」はできないということになるでしょう。

でも、飼い主の間では
「動物病院や獣医さんに相談するよりも、日頃よく行くトリミングサロンの方が相談しやすい」
というニーズがあるのも確かです。
動物病院でなければケアが受けられず、つい足が遠のきがちになりケアの機会を逃すよりは
身近で気軽なトリミングサロンで小まめなケアを受けられた方が良い、
という考え方もできるでしょう。

私個人の考えとしては、動物看護師のキャリア形成の一環としても
伴侶動物(を持つ飼い主)が気軽に歯磨きのケアを受けられるようになるためにも、
その結果、動物病院の経営発展に役立つためにも、
伴侶動物のデンタルケアを動物看護師の専門スキルとして教育し、活かすのはどうだろうかと思っています。

……ということが発表を聴いている間に頭の中をぐるぐるぐるぐる。

座長の
「それでは、フロアからのご質問はありませんか?」

「はいはーい♪」
とばかりに挙手。もう大人しくしていようなんてしないんだもんね(笑)

私からの質問に続いて、歯磨きなどデンタルケアは医療の一環なのだから
動物病院で獣医師や動物看護師が行うべき、
いや皮膚科分野と同じようにトリマーと協力して行うのも良いのではないか、
など様々な意見が出されました。

会の合間の休憩時間に、会長を務められているフジタ動物病院の藤田桂一先生から
「あの発表ね、質問が出なければ川久保先生を指名しようと思っていたんですよ」
とニヤリと笑って言われました。

ま、またですか~(≧▽≦)
というか、私が来ているのバレていましたか~(≧▽≦;)

どちらにしても黙って座っているわけにはいかなかったということですね(^^ゞ
何かの議題に関して意見をと思って頂けるのはとても光栄なことです。ありがたいです。
このテーマについては藤田先生も、いずれ別の機会を設けて話し合ってみたいとおっしゃっていました。
私も本当にそう思います。

動物看護師の方、トリマーの方、その他ペット関連職の方、そして一般の飼い主様にも
ぜひぜひ考えてみて頂きたいテーマでした。

夕暮れの景色がきれいでした。

 

 

磨いているけど、磨けていない?~歯磨きの「イ」と「ケ」の話

 

皆様、歯磨きはしていますか?
たぶん、「磨いているよ」と思われることでしょう。

では、「磨けていますか?」では?
これもたぶん、少しは「え?」と戸惑われるかも知れませんが、「磨けていると思う」ではないでしょうか。
 

私たちは物心ついた頃から歯磨きを教えられ、習慣づけられ

歯磨きなど「当たり前に」できていると思っているのではないでしょうか。
 
「歯磨き指導」を受けたことがあると思います。
小中学校でよく行われていますが、歯科医院で受けた方もいらっしゃるでしょう。
歯磨き指導は歯科医療スタッフにとって大変重要な仕事ではありますが、
特に新人の頃においては、ちょっと気が重いという人も少なくありません。
なぜならば「受け入れてもらえにくい(と思う)」からです。
 
「大人になって歯磨きを教えられるなんて」
「歯磨きなんてできるよ」
「結構です!」
こんな言葉が返ってくることが時々はあります。
今さら?歯磨ごときで?子供扱い?無駄だよ。馬鹿にされているみたい…
日頃「当たり前に」磨いているからこそ、大人になった患者さんには受け入れにくい気持ちが働くのはよく分かります。
これは私達、歯科医療スタッフ側にも同じことが言えて
「歯磨きを大人に教えるなんて失礼ではないかしら」
という遠慮や引け目があると、受け入れてもらえにくいと思ってしまうのです。
 
しかし、「磨いている」ことと「磨けている」ことの違い、「磨けている」ことの大切さを知ると、歯磨きの仕方をお伝えすることは引け目を感じるべきことではないと分かってきます。
むしろ、知ってほしい、お伝えしたい、という熱意すら湧いてくるのですが、「磨けている」「それくらいできる」と思っている方のプライドも傷つけないようにお伝えしなければなりません。
例えば虫歯になったとか歯がグラグラしてきたとか、「こんな磨き方ではだめだったんだな」と自分で実感できることがあれば受け入れやすいし、方法を変えてみようという気にもなりやすいとは思いますが、損失を出してからになって欲しくないので、耳を傾けて受け入れて頂けるようにお伝えする方法をスタッフは常に考えています。
 
さてここまで、人の歯磨きについてお話をしてきましたが
犬猫などパートナーの歯磨きについても同じようなことが言えます。
ここから先は、人の歯の場合と、犬猫などパートナーの歯の場合と両方を思い浮かべながら読んで頂きたいと思います。
 
近年では犬猫にも歯磨きが重要だということが知られるようになり、こちらがお話する前から
「歯磨きが必要なんでしょう?」と訊いて下さる飼い主様も増えました。
「歯磨きトレーニング」を積極的に受講して下さる方も増えましたが、
まだ「歯磨きにそんなに時間とお金をかけるなんて」「歯磨きくらい自分でできるし」と思っている方も少なくありません。
 
これは「歯垢染色剤」。
歯垢(プラーク)が付いていると赤く染まるものです。
学校や歯科医院などで赤く染めだされて「ここが磨けていない部分ですよ」と言われた経験があると思います。
私はこれを自分で時々使用して歯磨きチェックをしています。
理由は当然、磨けていない部分があるからです。
自分が磨き残しがちな場所など、歯磨きの癖も分かります。
歯科医師や歯科衛生士ですらなかなか完璧にはいかないものなのです。
 
患者様に虫歯の存在や歯肉、歯周組織のトラブルを指摘すると
「磨いているんだけどなぁ」
とよく言われます。
そう、磨いているのだと思いますが、残念ながら「磨けていない」部分があり、
長い間それに気付かなかったためにう蝕(虫歯)や歯周病になってしまったのです。
 
「磨けている」と思っている私たち人ですら、自分の歯すら「磨けていない」のだから、
犬や猫の歯を磨くとなればどうでしょうか。
ドッグトレーニングを受講されている飼い主様の中でも、「歯磨きはできているので」という方はいらっしゃいますが
パートナーのお口の中を見ると歯肉に炎症があったり歯石が付いてしまったりしていることがほとんどです。

歯石が付いた犬の歯

試しに磨いて見せて頂くと、歯ブラシの選び方が良くなかったり、
歯ブラシの動かし方や力の入れ方が適切でなかったり、
磨きやすいところだけ磨いて「磨いたつもりになっている」ことが本当によくあります。
このことは犬や猫の歯を磨くときだけではなく、
人が自分の歯を磨く際にも同じように言えるのです。
 
そこで私はしばしば尋ねます。
「最近、歯科医院で歯磨きのしかたを教わったことはありますか?」
と。
無ければ一度、歯科医院で歯磨きのチェックを受けてみて欲しいと思います。
きっと知らなかったことや気付かなかったことが色々見つかることと思います。
磨いているつもりでも、案外「磨けていない」ことに気付くでしょう。
そこでの気づきはパートナーの歯を磨いてあげるときにも大いに役立ちます。
そしてできれば、パートナーのための歯磨きレッスンも受けて欲しいと思います。
歯石が付きやすいのはどこか、磨き残しやすいのはどこか、歯ブラシの選び方は、動かし方や力の加減は、など
ひとりではなかなか知る機会がなく、独自の判断でおこなってしまいがちなことについて
正しい情報を得ることができるでしょう。
 
パートナーの歯やそれにつながる健康上のトラブルは、パートナーの「自己責任」というわけにはいきません。
パートナーの苦しみを見るにつけ、きちんと手入れしてあげなかったことを悔やみ、治療にかかる経済面や時間、物理的な負担を背負い、パートナーと飼い主様自身の二重の苦しみを味わうことになります。
それでもパートナーの苦痛を肩代わりしてあげることはできません。
できることは健康なうちに予防をしてあげること。
問題が初期のうちに対処してあげること。
苦痛を味わわせてからでは可哀相だと思いませんか。
そして、あなたの歯も。
悪くなる前に、痛くなる前に正しい磨き方を身に付けて、あなたの歯も、パートナーの歯も、パートナー自身も、生涯のお付き合いとして末永く共に過ごせますよう願ってやみません。

歯科眼科治療後にお勧めのエリザベスカラー&Ataraxia売店リニューアル

歯科治療、眼科治療などを受けている犬さん待望の
マズルが出ない長めのエリザベスカラー、「ワンツーカラーML」の販売を開始しました!

Ataraxiaでは、軽くて柔らかく、サイズのバリエーションも豊富な「ワンツーカラー」に惚れ込み、
「Ataraxia売店」で販売を行っております。
ご購入された方々からも嬉しい感想を頂いており、
本当にいいエリザベスカラーだと実感を深めているのですが
歯科や眼科の治療を受けたパートナーのために、もっと長さがあり、マズルや顔が出ず、
前脚や後脚で患部をいじってしまうことを防げるカラーがあるといいなあ、と思っていました。

以前に株式会社ヒューベス様を訪れたとき(→「エリザベスカラーについてのアンケートのご報告」)
もそのようなお話をさせて頂いたのですが、
このたび「ワンツーカラーML」が新しくラインナップに加わりました!!

待っていました~~~!!(≧▽≦)

というのも、エリザベスカラーの長さが足りないとパートナーが患部をいじってしまい、
悪化させたり、せっかくの治療済みの創を開かせてしまうこともあるのです。

これまではオーナー(飼い主)様がそれぞれに、首にスヌードなどを巻いて大きめのカラーを着けたり、
カラーの先に紙などで継ぎ足しをしたり、自作するなどして工夫をされてきたようです。

では、さっそく「ワンツーカラーML」をご紹介しましょう。

 

ワンツーカラーML

ボタンの色はメディカル感のある白です。

シールはかわいい歯のモチーフが使われています♪

では恒例、Ataraxiaのパートナードッグ、蓮に試してもらいます。

蓮の体のサイズ(体重5㎏)からするとだいぶ大きく見えますが、
完全にくつろいでいますね。
むしろちょっと嬉しそう(笑)

 斜め横から見るとこんな感じです。

  

 

 

完全にくつろぎに入りました(^^ゞ

 

蓮「ん?何か言った?」

こんな感じでくつろげるのも、日頃からエリザベスカラーに慣れる練習をしているからです。
(→「エリザベスカラー練習のすすめ」)

比較と参考に、ワンツーカラーSを装着した感じはこうです。

かなり長さが違うのが分かりますね。

ワンツーカラーMLは、ワンツーカラーLove Mを9㎝長くしたサイズに相当します。
歯科医師兼動物看護師としても、歯科治療、眼科治療などを受けている犬さんや
より長さのあるエリザベスカラーをお探しのオーナー様に
特におすすめしたいエリザベスカラーです。

そこで!!

ワンツーカラーLove MLの販売開始に合わせ、
商品をよりお求め安くするために、Ataraxia売店をリニューアルしました!!

名前も改めまして、「Ataraxia販売部」となります。
https://ataraxia.theshop.jp/

Ataraxia売店に比べ

  • 配送方法を見直し、送料をよりお安くできるようにしました!
  • 商品によっては配送方法をお選びいただけます
  • お支払方法は従来の銀行振込に加え、クレジットカード(VISA、MasterCard、American Express)コンビニ決済、またはPay-easyが選べます

と、大幅に改善いたしました。

現在リニューアルオープンキャンペーンとして、アカナファミリージャパンのフード・トリーツ類を8%OFFで販売しています。
取扱数は少なめですが大変お得になっておりますので、ぜひご利用ください。

取扱商品のラインナップはこれからも増えていく予定です。

今後ともAtaraxiaならびにAtaraxia販売部をどうぞ宜しくお願い致します。

 

 

 

第17回日本臨床獣医学フォーラムを振り返って

2015年も終わりが近づいてきました。
この数か月間、とても忙しくてご報告が遅くなってしまったのですが
2015年の大事な出来事の一つとして、9月に参加した第17回日本臨床獣医学フォーラム
(JBVP)を振り返りたいと思います。

私が日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)に参加するのはこれが2回目でした。
前回は歯科の講演を中心に回りましたが、今回は他に関心のある疾患や治療にも勉強の幅を広げたいという
私なりのテーマで参加しました。

とは言っても歯科はやはり外すことはできず、

「高齢猫の歯科疾患」 藤田桂一先生
「高齢動物のデンタルケア」 戸田功先生
「猫の口腔内腫瘍(扁平上皮癌を中心に)」 廉澤 剛先生
「歯周病原細菌悪性度検査の解釈とその臨床応用」 荒井延明先生
「高齢動物に発生する口腔内腫瘍の診断から治療の可能性まで」 奥田綾子先生

また、イタグレを飼っていることもあり骨折とてんかんの話をよく聞くようになったことから
それらについても知識を深めたいと思い、
「トイ犬種の橈尺骨骨折1 術前評価と手術計画」 川田 睦先生
「トイ犬種の橈尺骨骨折2 骨折形状に適した整復法と固定法」 泉澤康晴先生
「けいれん発作を起こす病気「てんかん」を徹底攻略」 渡辺直之先生
「犬の特発性てんかんの治療」 松木直章先生

さらに、日常のケアのこと、今後のスキルアップのため、そして今回のJBVPのテーマでもある
動物のシニアライフのために
「痒いの臭いの、飛んでいけ!―外耳炎の治療と予防を教えます―」 村山信雄先生
「症例写真の撮り方から症例発表の仕方」 石田卓夫先生
「怒る猫へどう優しく対処するか?」 石田卓夫先生

などのプログラムを周りました。
一つ一つを挙げて行くと膨大になってしまうので、ざっくりとした感想を。

伴侶動物の口腔について今一番ホット(?)なのは歯周病かと思いますが
ホームケア、つまりおうちでの歯磨きを習慣づけることで
歯周病とそれにつながる全身疾患の予防になることと、口腔内にできるその他の疾患の早期発見につながり
それにより伴侶動物の寿命とQOLを高めることができる、と再度思いを強くしました。
動物にも人間と同じように悪性腫瘍が発生することがあります。
獣医療での外科的治療がとても進んでいることに驚きましたが、
顎顔面領域の悪性腫瘍を切除すると容貌がかなり変化してしまうことから
飼い主さんの方で受け入れがたく、手術にまで及ばないことも少なくないそうです。
また、人間と比べると予後があまり良くないとも感じました。
(つまるところ、手術後の生存期間があまり長くないということです。)
歯科はやはり何はなくともホームケアがいかに大切か、ということですね。

そして今回新たな知見と驚きを得られたのが、荒井延明先生の
「歯周病原細菌悪性度検査の解釈とその臨床応用」でした。
荒井先生の講演は前回のJBVPでイヌインターフェロンα製剤のインターベリーαについて拝聴していました。
その時はひとつの参考として心に留めていましたが、
今回はそれにさらにデータが集まったおかげで大変興味がわき、今後のさらなる研究が楽しみになる内容でした。
この荒井先生のプログラムはランチョンセミナーでおいしいお弁当が出るのですが
最前列に陣取ってガツガツ食べまくりながらガツガツとノートを取りまくりました。
(相当異様だったと思いますごめんなさいごめんなさい)

インターベリーαとは犬の歯肉炎に効果が確認されている動物用医薬品ですが、
近年注目されているものに「Streptococcus salivarius K12」というものがあります。
これは口腔内にいる細菌で口腔内環境を整えることから、サプリメントとして利用されています。
(以前の記事でも触れています。→「日本臨床獣医学フォーラム参加報告」)

インターベリーαが歯肉炎を改善する効果は、
家庭でのオーラルケアの補助や歯周治療後のメンテナンスとしてとても魅力的です。
Streptococcus salivarius K12との併用はどうなのだろう…と思うと期待と興味でムズムズしてきて、
矢も楯もたまらず会場で質問してしまいました。

「私は人間の歯科医なのですが…」

質問の最初にそう自己紹介すると、後ろの方の席から
「歯医者さんだって…」
とボソボソ聞こえてきます。
ええ、歯医者さんも大注目の小動物歯科ですよ!

このプログラムでは他にも、一般の飼い主さんにも、獣医療に携わる方にもとても大切なことが語られていました。
それはまた改めてご紹介したいと思います。

講演後、ブースにいらっしゃる荒井先生の所に改めてご挨拶に伺いましたら
荒井先生は私のことをご存知でした。
最前列で弁当をかきこんでいたから、ではなくて(笑)、mvmの記事をご覧になって下さっていたからなのでした。
なんと~光栄です!

荒井延明先生と川久保純子

とっても優しくて頼れそうな荒井延明先生は動物の皮膚科の先生としてもご活躍です。
DHCのサイトにもご登場されていますよ。
http://top.dhc.co.jp/contents/pet/interview_dr/?sc_iid=catop_pet_01_toku_interviewdr

 

そう、今回のJBVPでは私のことを知っていてくださる方が幾人かいらっしゃり
気恥ずかしくもとても嬉しいことでした。
もともと動物業界とは関係のない職種でしたから、前回のJBVPではアウェーのような気分で
業者の方との名刺交換もお互いになんだかぎこちなくて少し寂しかったのですが
今回はようやくこの業界からも受け入れてもらえたような気持ちになれました。
それもこれも、前回のJBVPや日本小動物歯科研究会などで繋がりを頂けた方々のお蔭です。

で、今回のもう一つのテーマ…
「お世話になっている方々にお礼をして周ろう!」
蓮「お、お礼参り!?」((((;;OдO;lll))))
違うよ。

まずは「株式会社ファームプレス」様。
ファームプレス社長様からのお声掛けのおかげでmvmに執筆させて頂き、
より大きな広がりを頂けました。本当にありがとうございます。

ファームプレスの皆様と川久保純子

ファームプレスの皆様と川久保純子

川久保と社長様の間に3冊並んでいるmvmの、中央と右端が歯科特集号です。
川久保は中央の156号に書かせて頂きました。
ファームプレスの社長様のすごいところは、人のつながりをサラリと広げて下さることです。
こんな風に、お仕事以上の何かを人に与えられる人になれたらと私も憧れます。

 

「有限会社PKBジャパン」様。
「オーラティーン」といえば動物用口腔ケアグッズとしてご存知の方も多いのではないでしょうか。

PKBジャパンブースと川久保純子

PKBジャパンブースと川久保純子

社長様が素敵すぎるのです!
才色兼備でエレガント。ガサツな私とは大違いです。
あぁ~こんな風になりたい~(*´Д`)

PKBジャパンの社長様には色々と良くして頂いているのですが、
今回、歯みがきの件で、とあるご許可を頂いてしまいました(≧▽≦)
私にとってはとても嬉しいスペシャルなこと。
準備ができましたらお知らせ致します!

 

「ライオン商事株式会社」様。
昨年はライオン商事の社員の皆様向けに講演をさせて頂きました。
ベッツドクターズスペックデンタルブラシは川久保一押しの歯ブラシで、
このブログでもご紹介させて頂きましたが(→素晴らしい犬猫用歯ブラシの開発者様にお会いしました
「素晴らしい犬猫用歯ブラシの開発者様」には実はもうお一人いらっしゃったのです!
改めてご紹介いたします。
下津浦勇雄先生です!

下津浦勇雄先生と川久保純子
↑ 偉い先生なのに手がカワイイですね。ギャップ萌えします♡

AtaraxiaのLINE@で先行してチラッとお知らせしていますが
歯ブラシについて、ドクタースペックデンタルブラシにさらなる長所が見つかりました。
これもいずれお知らせいたしますね。

蓮「そればっかり言っているけど、まだ書けていない記事がたくさんたまっているよね…」

うっ(^_^;)

 

あっ、コイニーさんだ!

Coineyブース

実は(株)クレディセゾンさんの歯科検診を昔したことがあったので親近感があったのです♪
Ataraxiaは出張でサービスをおこなっているので
クレジットカード決済にCoineyを導入しています。
地域柄か、クレジットカードでのお支払いのご希望が極度に少なく
現金でお支払いを希望される方が多いので困惑しているところなのですが…(・_・;)

上記で「Streptococcus salivarius K12」のサプリメントについて触れましたが、
こちらはそのサプリメントを販売している会社
「プレミアムスイソ株式会社」様です。

プレミアムスイソのブース

妙なタイミングでの写真になってしまってごめんなさい(´・ω・`)

犬猫用だけでなく人用の口腔用サプリも売っています。
Streptococcus salivarius K12に加え、「Streptococcus salivarius M18」が配合されています。
私も何点か購入しました(^-^)
オンラインショップもありますよ。
ご興味のある方は試してみてはいかがでしょうか。
http://premium-suiso.co.jp/

 

蓮もお世話になっているアニコム様からはプレゼントを頂きました。

アニコムのプレゼントと蓮

この他、写真はありませんが
歯科器材の株式会社オサダメディカル様とは無麻酔歯石除去について語り合うことができ、有意義な時間を頂きました。
またエリザベスカラー(ワンツーカラー)でおなじみの株式会社ヒューベス様の皆様ともまたお会いすることができ、
新たな展開につながりそうです。

JBVPを経た新しい展開にどうぞご期待ください!

 

1.無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その3 エックス線撮影ができない問題~

1.歯科医学の面から 

その3 エックス線撮影ができない問題

犬猫などの「無麻酔歯石除去」ではポリッシングができず、
かえって歯石が付きやすい状態になってしまうことを前回お話しいたしました。
(前回の記事→「無麻酔歯石除去の問題~1.歯科医学の面から その2 ポリッシングができない問題 ~」)

今回はさらに大きな危険につながる、「エックス線撮影ができない問題」についてお話しいたします。

人間の歯科の場合は、歯周病の治療の際にはエックス線撮影(レントゲン撮影)を行います。
それにより肉眼では見えない部分の歯石の付着、その部位や量、大きさ、
歯の根の形、
歯周病による歯槽骨の吸収の度合い、吸収されている部位、形などを知ることができます。
私も歯科医として診療している中で、
表面から見るとあまり歯周病が進行していなさそうに見えるのに
エックス線画像で確認すると歯周ポケットのとても深い所に歯石がごっそり付いている
というケースをいくつも診たことがあります。
エックス線撮影をしなければこれらの歯石は見落とされてしまったことでしょう。
(「無麻酔歯石除去の問題~1. 歯科医学の面から その1 歯肉縁下歯石が取れない問題~
も併せてお読みください。)

さらに、歯周病におかされると歯槽骨(しそうこつ)という、歯を支えている骨がしだいに吸収されてなくなっていき、
やがてはあごの骨までも吸収が進んでいきます。

犬の顎骨(正常)

青い線が概ね正常な犬の顎(下顎)の骨のラインです。
これが歯周病におかされて吸収されると、たとえば下の絵の赤いラインのようになります。

犬の顎骨(吸収像)
犬猫、特に猫や小型犬のあごの骨はもともと非常に細く、
そこに歯周病による顎骨の吸収が起きると、残された骨の太さ(厚さ)はほんの2~3mmとなってしまいます。

ちょっと想像がつかない?
では少しリアルな絵で見てみましょう。

犬の顎骨エックス線写真風

蓮「ねえ…この絵は?」
描いた。
蓮「は!?」

先ほどの赤いラインまで歯槽骨が吸収された状態をエックス線撮影すると、
こんな風に写ります。
こんな状態で歯石取りのために力を加えでもしたら、
あごの骨は簡単に折れてしまいます。
事実、歯周病にかかっている犬猫の顎骨の骨折は珍しくはなく、
「ほんの少しぶつけただけで…」
「一緒に飼っている他の犬とじゃれ合っているうちに…」
など、本当にふとしたはずみで骨折してしまいます。
そして、他所で受けた歯石除去の処置によって骨折した犬猫が他院に回されてくるということも昨今増えているといいます。

歯周治療でのエックス線撮影が、治療の上でも安全の上でも重要なのがお分かりいただけるかと思います。

動物病院、トリミングサロン、ペットショップ、出張サービスなど無麻酔歯石除去を行っているところは色々ありますが、
トリミングサロンやペットショップ、出張サービスなどでは当然エックス線撮影ができません。
結果、歯周病が進行しているのに気付かず処置をして
歯周病の悪化につながるばかりか、骨折など
かえってひどい事態に至らしめてしまうことがあるのです。
エックス線撮影による検査は歯周病治療に欠かせません。
そして何度も言いますが歯石除去は医療行為であり、治療と予防の一環です。
犬・猫などの歯石除去は、きちんと検査を行う動物病院で受けるようにしましょう。

次回、「犬をはじめとする動物の無麻酔歯石除去の問題をドッグトレーニング・歯科医療・心理学の面から語る その2. 無麻酔歯石除去の問題~犬猫など動物の心理としつけの面から~」に続きます。

 

犬、猫、小動物の「歯磨きアンケート」ご協力のお願い

犬、猫、小動物の飼い主様にお願いです。
Ataraxiaではこれら伴侶動物(ペット)のお口の健康の啓発活動の改善・向上のために
飼い主様から実際のお声を伺いたいと思っています。
そこで、簡単なアンケートを行うことにしました。

内容は動物の歯磨き事情や歯磨き教室についてです。

無記名で、ほぼ選択するだけ、全部で10問の簡単なアンケートです。
もちろん何かご意見があれば自由に書き込むこともできます。
アンケートの結果は等サイトでお知らせし、今後の活動に役立たせて頂きます。

どうぞご協力をお願いいたします!

スマートフォン等でアンケートが表示されない方は、下のリンクからお願いいたします。
https://jp.surveymonkey.com/s/TBND5HL

オリジナルのフィードバックアンケートを作りましょう

 

 

第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会でドキドキ

2015年3月1日(日)、第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会に参加してきました。

日本小動物歯科研究会とは、動物の歯科医学の知識・技術の向上と啓発のために活動している会で
会員には獣医師はじめ動物看護師、歯科医師や歯科技工士もいるのです!
私もお仲間に加えて頂き、今回の参加を楽しみにしていました。

会場は品川フロントビル。

品川フロントビル

 この日の私は聴衆に徹し、ただひたすら聴いて勉強するつもりで、
ある意味では気軽に会場に入りました。

席を確保し、一旦場を外して戻ってくると、隣にはフジタ動物病院の高橋香先生が
にこやかな笑みを浮かべています。
イベントで高橋先生がいらっしゃる所という所に私が現れるので
高橋先生ストーカーみたいになっていますが、違うぞ。今回は(も)偶然だぞ。
しかし、この妙なご縁には笑ってしまいます。

このように穏やかな空気の中で会が開始。
歯周疾患にかかった小動物の口腔内からみられる多剤耐性菌についてや、
小動物の歯の疾患に対するBacteroides属(バクテロイデスぞく)の菌の関与など、
出だしから私の興味を激しく揺さぶるものが続きます。

私は歯科医としては歯周治療に力を入れていたので、
歯周疾患の多い犬猫の歯科にはとりわけ興味が掻き立てられます。
ナントカ菌とかカントカ菌なんて、一般の人にはちんぷんかんぷんかも知れませんが
齲蝕(うしょく、虫歯のこと)や歯周病などは細菌が関与して引き起こしているものなので、
歯科に携わるということは細菌への関心も高まるものなのです。

そして、高橋先生の
「イヌとヒトの歯周病原細菌における宿主特異性を規定する遺伝子因子の探索」

こういうの知りたかった!(・∀・)
人も犬も歯周病にかかります。
歯周病の原因となる細菌は人と犬とで同じものもあれば、違うものもあります。
(語ると長くなるので割愛します。)
高橋先生の演題をとても平ったく言えば、
人と犬の歯周病の主な原因菌の遺伝子的な違いを調べ
人と犬、それぞれへの感染について検討するというものです。

「人獣共通感染症」や「ズーノーシス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
文字通り、人と動物との間でお互いに伝染したり、されたりする感染症のことです。
犬の歯周病について、人⇔犬の相互感染が起きるのかどうか
私はずっと気になっていました。
このことに関して大きな示唆を与えてくれる、素晴らしい調査でした。

さらに…来ました。
センターヴィル動物病院の中野康子先生による
「無麻酔下でスケーリング(歯石除去)を行った結果、重度の歯周病にかかった犬の例」

全身麻酔をせずに行う歯石除去、通称「無麻酔歯石除去」。
本当にこれ、問題になっているんですよね…。
私もこの危険性為害性(害をなすこと)についてはかねてより警鐘を鳴らしており
時々Twitterでつぶやいたり、
このサイトでも啓発のための記事を書いている途中なのですが、
なかなか忙しくて公開に至れず、じれったく思っているところです。

中野先生の発表が終わった後も、会場に重い空気が流れたような気がしました。
司会を務めていらした、フジタ動物病院の藤田桂一先生も
無麻酔歯石除去への懸念を意見されていらっしゃいました。

(うんうん、そうだそうだ。)
頷きながら藤田先生のお話を聞いていると、

「~そこで、無麻酔による歯石除去について、今日会場にある方が来ています。」
おっ?
「その方は歯科医師でドッグトレーナーでもあります。」
いいっ!?
藤田先生の方を見ると…

「一言お話頂いて、いいですか?(ニコッ☆)」

藤田先生が私に神々しい笑顔とビームを放っています。
オオオオ…
聴衆と勉強に徹する、なんて気軽に構えていたら、すごい機会を頂戴してしまいました。

なんという光栄でしょう。
突然のことで準備していなかったので話はあまりまとまっていなかったと思いますが、
昨今問題になっている無麻酔歯石除去の中でも、
「無麻酔歯石除去の資格」なるものを付与したり、
それで「資格」を得た人がビジネスとして行っている問題について提言させて頂きました。

無麻酔歯石除去の資格ビジネスについては、
このサイトでもまた別の機会でお話できればと思っていますが
一般の飼い主さんの間では「全身麻酔=危険」、「無麻酔=安全」という一部誤解が浸透しています。
「無麻酔歯石除去」なる商法は、このイメージを利用しています。
動物歯科を正しく行っている動物病院などでも、歯石除去と麻酔の必要性についてお話をされているようですが
飼い主間での情報伝達や無麻酔歯石除去業者の宣伝の勢いの方が強く、
誤った認識と危険な無麻酔歯石除去がどんどん広まっていくことを私はとても危惧しています。

また、ご質問も頂き
スケーリング(歯石除去)をすることでかえって歯周組織を痛めているのではないか
という疑問に対する意見や、
無麻酔では歯石縁下歯石(歯周ポケットの中に付いている歯石のこと)の除去ができない問題(大きな問題です)、
食生活や唾液の性状によって歯石沈着に違いがあること
などについてもお話させて頂きました。

本当に、語り出すと言いたいことは数えきれないほどあり
ならばいずれ私も演者として何か発表したいと思うくらいでした。

語り足りないながらも、私の話に興味を持って下さった
獣医師の先生や歯科技工士さん、業者の方々もいらっしゃり、
その後の貴重なつながりを頂けました。

 2014年9月の日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)に参加したときも思いましたが、
獣医師の先生が、動物の歯科について、人間の歯科顔負けに熱心に取り組んでいらっしゃることに
感銘と言葉にならない胸の高まりを覚えました。
多分私は、嬉しいのだと思います。
人間の歯科医療の世界は、お世辞にもいい環境とは言えません。
獣医療界の方々が歯科に取り組んでいる姿はとても真摯で、
人間の歯科の世界に倦んでしまう気持ちをリフレッシュさせてくれるのです。
それに気のせいか、獣医学の集まりは温かいのです…。

歯科医師として。カウンセラーとして。ドッグトレーナーとして。動物看護師として。その他(笑)。
何の人だか良く分からないと言われますが、
色々やっている私だからこそできるものがあるはずと、気持ちも新たになりました。
こうしちゃいられません。
伴侶動物の歯科と正しいお手入れについて、
歯みがき(口腔ケア)を通じたコミュニケーションとトレーニングについて、
今後も力を入れて提言していきます!!

第23回日本小動物歯科研究会症例検討会・総会 川久保

 

蓮の歯が折れた!~犬の歯が折れたら~

それは2012年11月25日の夜。

「犬の歯磨きは楽しいよ!」の続きとして、具体的な歯磨きへの慣らし方を書く予定でいたのですが
思わぬハプニングが…。

いつものように蓮の歯を磨いていたところ、
右上の奥歯(第4前臼歯)の尖っている所(咬頭(こうとう)といいます)が欠けているのに気付きました。
よーく見ると、欠けた面にポツンとピンク色の点が…。

ここで歯のお話をしますと、歯の中には歯髄(しずい)という、神経や血管が通っている部分があります。
歯が折れたり、欠けたり、虫歯になったりして、歯髄が露出した状態を露髄(ろずい)」といいます。

露髄してしまうと細菌が歯の中に入り込み、歯髄に炎症を起こし、やがて根の先に膿をつくり、
ひどくなると膿が出口を求めて歯肉や顔面に「瘻孔(ろうこう)」という穴を開けてしまうことがあります。
こうなるともちろん歯は抜歯になります。

しかし早いうちであれば「抜髄(ばつずい)」という処置を行い、
歯の根の中の「根管(こんかん)」の中にまでに入り込んだ細菌や感染した歯髄を除去し、
「根管充填(こんかんじゅうてん)」という根管の中を封鎖する処置を行うことで、歯の保存が可能です。
つまり抜歯せずに済むのです。

私は元々歯科医師なのでよく解るのですが、このピンク色の点は露髄しているか、露髄一歩手前…。
露髄してしまった場合の厄介さ、恐ろしさもよく心得ているだけに、
できれば露髄していて欲しくないと心から思いました。

人間であれば今の状態なら「覆髄(ふくずい)」という歯髄を保護する処置をして、欠けた部分をレジンで修復して…
と治療の手順も頭に浮かび、そのようにするところなのですが、相手は犬。
やはり獣医さんに診察してもらうのが一番と、翌日朝一番でかかりつけの動物病院に行きました。

かかりつけの先生の診断では、
「欠けているだけで露髄はしていないので、経過観察でよいでしょう」
ということでした。
しかしどうしても収まらない、私の歯科医師としての感覚が。

人間であれば、これだけ大きく欠けて露髄寸前まで来ていれば、相当しみたり痛いレベル。
歯髄の保護は必要だし、欠けた所からさらに欠けてくるおそれもあるので
欠けた部分を修復し、今残っている歯の部分も保護しなければなりません。
しかし人間なら局所麻酔で行える処置でも犬の場合は全身麻酔をかけなければならず、
負担やリスクを考えると、欠けた歯にそこまでするよりは経過観察で…というのも一理あります。

でも。

万が一露髄していたり、露髄寸前で放置しておくことで歯髄炎(しずいえん)を起こしたら、
そちらの方がリスクが高く、蓮を苦しめることになるのです。

蓮をひっくり返して、何度も何度も欠けた歯をのぞき込みました。
心の中のどこかでは、このままで済めばいいのにという思いはあったのです。
治療をするとなれば、全身麻酔のリスクや、
犬の歯内治療という特別な治療を行っている動物病院を探さねばならないのですから。

蓮の歯を見ながら、純粋に歯科医師としての自分の目と感覚にゆだねました。
そして意を決しました。

…やっぱりこのままでは駄目だ。

受診することに決めた動物病院は我が家からかなり遠く、しかも雨でした。
知らない遠方に雨の中を車で行くのは少し不安がありましたが、
手をこまねいている内にどんどん悪くなってしまうかも知れません。
犬はあまり痛みを表現しませんが、痛いはずなのです。

こんなとき、パートナーを助けてあげられるのは飼い主だけです。
パートナーは飼い主を頼るしかないのです。
なのに飼い主に行動力がなかったり、面倒くさがったりしたら…?

これは子供が急に発病したり、ケガをしたりしたときなど、人間にもしばしばあることです。
「こんな時に熱を出すなんて…」 忙しいときなど、つい苛立ってしまう気持ちはよく理解できます。
それは仕方のないことかもしれません。
でも、そういう気持ちは心の奥に飲み込んで、病気の子供のために動くのが親というものです。

さらに可哀相なのが、経済的な事情で満足な医療にかかれないことがあるということです。
私が相談員をしていた学校でもありました。
校内の歯科検診で「要治療」と言われているにもかかわらず、
お金がないからという理由で、 親に治療費を出してもらえない子供たちがいました…。

今や犬は家族の一員です。
犬(パートナー)が不意の病気やけがになったときに
受診できる動物病院を探しておく必要性は以前もこのブログで書きましたが、
お金に関しても備えておく必要があります。
お金がなくて治療ができないなんて、目も当てられないほど悲しいではありませんか…。

蓮を助けられるのは私だけ。
遠かろうと、雨だろうと、そんなのは関係ない。
私は蓮を車に乗せ、目指す動物病院へ向かいました。

診察して下さったのは院長先生で、小動物の歯の治療でご高名で相当数の実績のある方です。
院長先生の診断と治療の説明は、すべて私の納得のいくものでした。

「犬だから仕方ない」 「動物だから大丈夫」
よくこう言う人がいますが、こんな昔の人の古い考えで目の前のパートナーの苦しみに目をつぶり、
今できるはずの治療をしないということは、私にとって考えられません。
愛するパートナーには最善のことをできるようにしておく。 それが飼い主の責任ではないでしょうか。
「犬だから仕方ない」 どう仕方ないんです?
「動物だから大丈夫」 なぜそう思うのですか?動物も痛みを感じるし、病気やけがで死にます。

私は蓮の歯科治療をお願いすることにしました。

さて、犬の歯について。
犬の歯が欠けたり、折れたりすることは、実はとても多いのです。

犬の歯は人間が思っているほどそんなに丈夫ではありません。
よく「歯やあごを丈夫にする」「歯垢や歯石が取れる」という名目で硬いオヤツやおもちゃが市販されており、
それを信じて与えている飼い主さんも少なくないですが、あまり推奨されることではありません。

まず第1に、すでに生えている歯が、硬いものを噛むことによって丈夫になるなんてことはあり得ないからです。
硬いものを噛めば噛むほど、どんどん歯がすり減るだけです。

第2に、歯が折れる危険があるということです。
犬の歯が折れた原因として、ヒヅメ、アキレス、骨がこの順に多いそうです。
これらは「歯石取りの効果があるから」といって与えている飼い主さん、多いですよね…。
果たしてそうでしょうか。

第3の理由は、硬いオヤツやおもちゃは歯垢除去・歯石除去には不十分だからです。
噛むことにより唾液の分泌が促され、口の中を唾液で洗い流すという効果は確かにあります。
硬いオヤツやおもちゃが歯面をこするという効果も期待はできますが、
歯面に当たった部分しか清掃できません。
噛むのに関与しなかった歯や、歯周ポケットの中までは掃除できないのです。

歯石予防にはきちんと歯磨きをするのに勝るものはありません。

私も蓮には硬いオヤツやおもちゃは与えないようにし、細心の注意を払ってきました。
それにもかかわらず、このように欠けてしまったのです。
硬いオヤツやおもちゃを与えている飼い主さんは、何か起きる前に止めることをお勧めします

何度も言いますが、犬の歯が折れることは多いのです。
歯が折れてしまうと、専門的な治療ができる獣医さんを探さねばならず、
検査や治療で莫大な費用もかかります
肝心なパートナーはと言えば、
歯は折れてしまうし、全身麻酔で治療を受けねばならないしで、負担しかありません

「うちの子は大丈夫」 これは絶対にあり得ないのです。
飼い主さん、よーく考えて下さいね。